アネモネのPSO2での冒険の記録です。
マ○オが攻略できないライトユーザーなので、攻略に役立つような内容はないです。
まったり遊んでる記録を残してます。更新も記事の内容もマイペースです。
リリパ成分多め。りっりー♪
(所属シップ・4(メイン所属)&10 メインキャラ:アネモネ サブ:メア、アネモネ(デューマン) 他)
※ブログ内の私のイラストは転載禁止です。
【15期ストーリーその2】
◆◆◆
ローズさんが目を覚まし、そして私たちと共に生活することが突然に決まった後、私とメア君はイシュエルに彼の面倒を見てほしいと頼まれる。
なぜだか私はローズさんに対して妙な不安を感じていたので、面倒をみるということに少しだけ躊躇いがあった。
しかし彼を家に連れてきたのは私だし、それにローズさんは優しそうで本当にいい人という雰囲気の青年だ。そんな彼に不安を感じること自体がおかしいし、何の根拠も無いその感情を私自身あまり信用してはいなかった。なので私は頼まれたとおり、メア君と一緒にローズさんに色々と教えたり身の回りのものを用意したりと、彼がこれからここで生活できるように準備をしていた。
「ローズさんのへや、は……この、あきべやで、いいかな……」
「あ、アネモネさん、何ですかこの部屋……いくらなんでもこれはないでしょう」
ローズさんの部屋を決める私の後ろで、メア君が何故か突っ込みを入れてくる。私は振り返り、「なぜ?」とメア君に聞いた。
「いや、だってここ……本だらけの物置じゃないですか」
メア君は部屋の中を覗き込みながら、呆れた様子でそう答える。そうして彼は傍に立っていたローズさんにも、続けてこう聞いた。
「ローズさんだっていやですよね? こんな、本がいっぱい置かれた物置みたいな部屋!」
メア君は私やイシュエルが集めた呪術書が無造作に積まれて置かれた部屋の中を指差し、「これ、掃除するだけでも大変ですよ!」と訴える。別にメア君にこの部屋を使えと言ってるわけではないのだけど、メア君はどうもこの部屋じゃ不満なようだった。
「別に、メア君がつかうわけじゃないのに……」
「そーいう問題じゃありませんっ!」
「えー……」
そんな私とメア君のやり取りを見てか、ローズさんが苦く笑いながら私たちの会話に割って入る。
「ま、まぁまぁ。そうだな……本がいっぱいで、むしろなんだか面白そうじゃないか」
ローズさんはそう言って私とメア君に笑顔を向けた。
「ローズさんは……ほん、すき?」
「あぁ、よく読むぞ」
私の問いに笑顔のまま頷くローズさんに、メア君が「でも」と声をかける。
「ローズさん、これふつーの本じゃないんですよ? アネモネさんとイシュエルさんの本だから、なんかよくわからない呪術の本なんです!」
「へぇ、呪術……」
ローズさんはメア君の訴えを聞いて、尚更に興味を持った様子で部屋の中に入る。そうして彼は手近にあった本を一冊、掴み上げて表紙を開いた。
私とメア君はそんなローズさんの行動を興味深げに見守る。ローズさんは真剣な表情で、呪術書のページをぱらぱらとめくった。
「……じゅじゅつ、きょーみ、ある?」
ローズさんの様子を見て、私は思わずそう声をかける。するとローズさんは少し顔を上げて、何か少し戸惑ったような表情を返した。
「あ、あぁ……ええと、興味というか……」
ローズさんはいったん本を閉じて、不思議そうな表情を返す私とメア君にこんな言葉を返す。それはちょっと予想外の一言だった。
「俺、呪術を知っている……かな?」
「え?!」
ローズさんの意外な一言に対して、驚きの声を上げたのはメア君だ。私も声を上げはしなかったが、メア君同様に驚いていた。
「うそー! ローズさんも、呪術使えるんですー?!」
「かもしれない……う~ん、ぼんやり思い出してきたような、そうでないような……」
ローズさんは再び呪術書を開き、考えるような表情で中身に目を通す。そうして「うん、やっぱり知ってる」と独り言のように呟いた。
「ひゃー、ローズさんもそんな、呪術師さんだったなんてー!」
相変わらず可愛い驚き方をするメア君に、私もうんうんと頷いて同意する。ローズさんは私を見て、小さく笑った。
「確かこの本、君とイシュエルさんのなんだよな? ということは、君もその……呪術を?」
「うん……まぁ……」
「アネモネさんはすごいんですよ! 怪しい黒魔術でババーンってしちゃうんです! 怖くて強い!」
「メア君が……わたしをそんな、ほめてくれるなんて……めずらしいね……」
「はっ! そ、そんなに褒めては無いです! そこそこすごいです!」
私とメア君のそんなやり取りを見てか、ローズさんが今度はクスクスと控えめに笑う。その後彼は、再び私に問いを向けた。
「呪術師さん、なんだね。すごいな……具体的に何をしているんだ?」
「わたし、よーへーさんなの……この国、まもるため、たたかってる……」
「よーへー? まもる?」
「今は世界的に、どこも戦ってるらしいからね」
私の答えに首を傾げたローズさんの疑問に対して、予想外の方から言葉が返ってくる。私たちは一斉に、視線を声の主へ向けた。
私たちの視線の先にいたのは、褐色の肌色がこの国では少しだけ珍しい小柄な少女だ。耳がメア君みたいに小さく尖った彼女は、普通の人間ではない。彼女はイシュエルに召喚された、メア君と同じ悪魔だ。
「セーレ」
私が彼女の名を呼ぶと、セーレは夜闇に光る猫の目のような金色の瞳を私に向け、気だるげな様子で「そうなんでしょう?」と私に言った。
「ボクは元々この世界の住人じゃないから、詳しくは知らないけどね。でも、アネモネなら知ってるでしょ?」
「そう、だね……いまは、せかいじゅう、たたかってる……このヴァルトリエも、おなじ。だから、わたしもたたかってるの……」
「そう、なのか……」
私の返答を聞いて、ローズさんはなんだか悲しそうな表情をする。彼はきっと争いに満ちた世界の現状を知って、そんな表情をしているのだろう。優しい人なんだろうなと、思った。
「君みたいな女の子も戦わないといけないなんて、悲しい世の中だね」
「でも、ちゃんと……たたかえば、おかね、もらえるし……わたしは、メア君とかフェンディちゃんとか、まもりたいひと、この国にいっぱいだから……べつに、たたかうの、イヤじゃないよ」
もちろん平和な世の中が存在すれば、それに越したことは無いとは思う。だけどそんな現実はあいにくとこの場所には無いのだから、私は今この現実を受け入れて戦うことを選択した。
すると私のその言葉を聞いてか、ローズさんは寂しい表情のままに笑う。思わず胸が痛むほどに、とても悲しい笑顔だった。
「君は強いんだね。逃げずに、ちゃんと自分の意志と信念を持って戦っているんだ」
「……そんな、とくべつ、すごいことかんがえて……たたかってるわけじゃ、ないよ?」
なんだかやけにすごい認識の仕方をされてしまったので、私は困った様子でそう正直にローズさんへ言葉を返す。
本当に、今の私はそんなすごいことを考えて戦っているだけではない。守りたいからとか、お金もらえるからとか、そう言う気持ちは正直なものだけど、でも理由はそれだけだと思う。そしてそれはごく当たり前の、他の戦う多くの人と同じ理由だとも思った。
「みんな、おなじでしょう……? くに、まもるためとか……そーいう、きもち……」
「そうだとしても、実際に行動できる人はそう多くは無いよ」
「そうかな……」
ローズさんの言葉に私が首を傾げると、傍で話を聞いていたセーレが小さく笑う。
「確かにそうかもね。思っても行動できる人ばかりの世の中じゃないから」
「う~ん……」
まだ首を傾げる私に、セーレは幼い見た目とは裏腹に、ひどく大人びた口調で言葉を続けた。
「アネモネは”そういう世界”で実際に戦ってるから、わからなくなっているだけだよ。戦場は君と同じで、戦うことを選択した人が集まる場所だからね。実際に行動した人しかいない場所でしょ?」
「……たしかに、それもそーだね」
セーレは猫のような目を細めて、まるで私を観察するかのように見つめる。
「でも、世の中はそんな人ばかりじゃないよ。戦えない人や、あるいは戦うことを恐れて逃げた人も多いはずさ」
「逃げる……」
「君は戦えるけど、君だって逃げる選択肢はあったんだ。見て見ぬふりも出来る。でも君はそれらを選ばなかった。彼が関心するほどには、十分立派じゃないかな」
「セーレ、褒めてるの?」
正直、私はこの悪魔のことはよくわからない。
セーレは見た目はメア君と同じくらいなのに、メア君よりよっぽど中身は大人な悪魔だ。大人なぶん賢いし欺くことも知っているから、厄介だと思う。普段はもちろん、こういう時に何を考えてたり企んでいるのかわからない。
訝しげに問う私に、セーレは目を細めたままに笑った。
「もちろん。ボクは出来れば知らんぷりして避けたい派だからね。だってメンドーじゃん。メンドーなことをわざわざ選びたくは無いよ。逃げても、別にボクやキミの立場なら周囲は非難しないはずさ。ボクらは見た目だけは可弱い女子供だし。でもそうであっても、あえてメンドーなことを選択してる君はすごいって思うよ」
金色の目を細めてにっこりを笑みを向けてきたセーレに、しかし私は眉根を寄せた表情を返す。やっぱりこの悪魔はイリスと同じで、なんだか言っていることに裏がありそうだと感じてしまう。
「……メンドーでも、だれか、やらないと……」
「危険なことでも?」
「うん……きけんでも、わたしは……たたかえるんだし……」
「へぇ……エライエライ、アネモネはやっぱり立派だね~」
「……」
私とセーレのそんな会話を傍で聞いていたローズさんは、どこか真剣な表情で黙していた。だけど、やがてぽつりと独り言のように呟く。
「そうだね……逃げないのは立派だよ。たぶん俺は……逃げたから」
「え?」
ローズさんの不意の呟きに私が振り返ると、ローズさんは曖昧な笑みを私に返す。そして彼は首を横に振り、「なんでもない」と私に言った。
◆◆◆
深夜、私が自室で本を読んでいると、不意に部屋のドアがノックされる。本から視線を外して顔を上げると、直後にドアの向こうから声が聞こえた。
「アネモネ、起きてるか?」
声の主はイシュエルだった。私は少しだけ疑問を思いつつも立ち上がり、ドアを開ける。ドアの向こうには、やはりイシュエルが立っていた。
「悪ぃ、遅くに。寝るとこだったか?」
ラフなシャツとズボンという格好のイシュエルは、同じく寝巻だった私にそう告げる。私は小さく首を横に振り、「だいじょぶ」と返した。
「まだ、ねむくなくて……」
「そうか……じゃあ、いっしょに寝るか」
「なにか、ようじ?」
「ホント、君はスルースキル高くなってきてるよね」
イシュエルの苦笑いの後に、私は「なか、はいる?」と一応彼に聞いてみる。イシュエルは首を横に振った。
「いや、ここでいい」
「そう……で、なぁに?」
近くに寄って来たナマミソちゃんを撫でながら、私はもう一度イシュエルにそう問う。イシュエルは小さく笑んだ表情で、私にこんなことを聞いた。
「ローズ君のこと、ちょっと聞きたいと思って」
「え?」
予想外のイシュエルの言葉に、私は思わず目を丸くする。そして私はイシュエルにこう返した。
「なにを、わたしにきくの……?」
ローズさんのことを私に聞かれても、正直困ってしまう。
だって彼本人も自身のことをよくわかっていない様子なのに、他人の私が何を知っていると言うのか。
それに記憶喪失とはいえ、自分のことは自分が一番知っているはずだ。なぜ本人に聞かないのかと、私はそう思いながら首を傾げた。
「わたしにきいても……」
「あぁ、別にあいつの素性を聞きたいわけじゃない。そうじゃなくて」
「なに……?」
ますます疑問を思う私に、イシュエルはこんなことを聞いた。
「聞きたいのはあいつの印象というか……お前、あいつを見てどう思う?」
「どう、って……」
イシュエルの問いの意図がわからず、私は困惑した眼差しを彼に返す。そんな私の様子にイシュエルは苦笑し、質問を言いなおした。
「ええと……ローズを見て、お前は何か感じないか? なんか見たことあるとか、懐かしいとか……」
「へんなこと、きくね……」
私が思わずそう返すと、イシュエルは苦笑を洩らしながら「そうだな」と頷く。そんな彼の様子を見て、逆に私が彼へと問うた。
「イシュエルは……なにか、かんじることあ、あるの?」
「ん?」
「わたしにそんなこと、きくんだもの……きっと、イシュエルじしんが……おもうとこ、あるんだよね?」
「おぉ、アネモネちゃん鋭いね」
イシュエルはニヤリと一瞬何故か不敵に笑み、そしてすぐその表情を消してから、頭を掻きながらこう呟くように言う。
「そうだな……正直俺もはっきりとはわかんねぇんだけども、なんかあいつ見てると、んー……」
考えるように沈黙した後、イシュエルは「会ったことある気がして」と答えた。それを聞き、私は驚きに目を丸くする。
「そう、なの?」
「いや、当然あいつと会ったなんて記憶はねぇよ? ただ、雰囲気がそうだって話」
「……ひらめいた! イシュエルが、キオクソーシツの、かのうせいは…!」
「やめようよアネモネちゃん、これ以上記憶無い人を増やすのは……」
「むむっ……」
イシュエルは「俺の記憶はすごくしっかりしてるけど」と前置きしてから、私にこう話を続けた。
「でも、なんかローズの雰囲気を知ってるような気がするんだよな。はっきりどうこうとは言えねぇンだけど」
「そう、なんだ……」
イシュエルの話を聞き、私も改めて彼のことを考えてみる。そして私は私が感じた違和感をイシュエルに話していいのかを一瞬迷ったが、やがて口を開いた。
「そうだね……わたしも、かれに……すこし、いわかんをかんじること、あるよ……あったことある、とかじゃ……ないんだけど……」
「へぇ……一体なんだ?」
「わたしは……かれを、こわいとかんじる……」
迷ったが、私は私が感じたことを正直にそう告げた。
その感情はローズさんに対して失礼だという自覚はあったので迷ったが、しかし正直なことを語ればそうだからしょうがないとも思う。
「怖い?」
「うん……こわい……彼はやさしいし、そんなこわいヒトじゃないって……それは、わかっているんだけど……」
「……そうか」
私の話を聞いてか、イシュエルは考え込む表情で押し黙る。そのイシュエルの表情になんだか不安を感じた私は、「イシュエル?」と思わず声をかけた。
「どうしたの……? ローズさんって、やっぱりなにか……あるの?」
私の問いかけに反応して、イシュエルは伏せていた眼差しを私に向ける。そして彼は曖昧に笑ってみせた。
「いや、それはわかんねぇよ。でも、俺とお前の思い過ごしだといいなーって思ってな」
「それは、そうだね……」
「あぁ。……わりぃな、夜遅くに」
イシュエルは優しい笑顔を私に見せ、「それじゃあな」と言って立ち去ろうとする。そんなイシュエルを私は、反射的に「まって」と呼びとめた。
「なんだ?」
優しいイシュエルの表情。
私を見つめる翡翠色の瞳には、人を安堵させようとする穏やかな感情がある。そしてその眼差しの本当の意味を私は知っているから、私は彼とは反対に警戒するような眼差しを返した。
「イシュエルは……また、わたしに……なにか、かくしてない?」
「隠す? ……いや?」
小さく笑って否定するイシュエルは、私の頭を軽く撫でて「もうお前も寝ろ」と言った。そうして私に背を向けて、彼は立ち去ろうとする。
「うそつき」
イシュエルの背中にそう小さく呟き、私は表情無くドアを閉めた。
◆◆◆
ローズさんを保護して数日したある日、私は傭兵としての仕事を終えると、メア君と一緒にちょっとした冒険気分で外に出かけることにした。
メア君と一緒だからあまり危険なところには行けないので、魔物が出るという噂は無い古い坑道へと向かうことにする。
目的は主に私の呪術に使用する触媒となる鉱物集めだが、そこで拾えるものはちょっとしたお小遣い稼ぎになるものもあるので、それも目的だった。
出発前、私は荷物を準備しているメア君に声をかける。メア君は魔物が出ない場所へ行く時はやけに強気で張り切るので、ノリノリで大荷物を準備していた。
「メア君、いこ……って、なに、また、そのおーきな、にもつ……」
「備えですよ、備え! 大冒険ですし、何があるかわからないですからね!」
「べつに、だいぼーけんはしないけど……あと、うさこが、かばんから、はみでてるよ……?」
「きゅーきゅきゅーっ!」
「ほんとです、うさこが入らない! どうしよう、俺もたまさんの人形持ってるからうさこまで持てないし」
「にもつ、へらせば……?」
「大冒険ですからね! 備えは減らせません!」
「そーじゃなくて、にもつっていうのは、うさこのことで……うさこの量、へらせば? ぶんかつしてみるでも、いいけど……」
「うさこの……?! うさこをどうする気ですか! 鬼ー!」
「きゅうぅううぅ~っ!」
「しょーがないな……うさこ、わたしがもってあげるよ……よいしょ、と」
「きゅぅう! きゅううぅぅぅ~っ!」
「あー! アネモネさん、うさこの耳持って運んじゃだめー!」
メア君が一人で勝手に騒いでいると、ローズさんが「どうしたんだ?」と言いながら近づいてくる。
私はにくきゅう手袋でぽこぽこ叩いてくるメア君に困った顔をしながら、ローズさんの方へ視線を向けた。
「メアくんが、わがままを言って……そのうえ、ぼうりょくを……」
「え?!」
私の説明に驚くローズさんに、メア君が泣きながら「違いますー! アネモネさんが悪いんですー!」と訴える。メア君、人のせいにして酷いなぁ。
「ええと……なんだかわからないけど、喧嘩はいけないと思うな」
苦笑しながらそう私たちに言うローズさんは、泣くメア君を慰めるように頭を撫でてあげる。メア君はローズさんにぴったりひっついて、すでにローズさんはメア君の心を掴んでいるようだった。恐るべし。
「アネモネさん、いつもひどいんです! ローズさん、アネモネさんに言ってくださいー! ひどいって!」
「二対一、とか……ひきょうね……! ローズさんは、メア君派なんだ……!」
「い、いや……二人とも、だから喧嘩はだめだってば……」
困った様子のローズさんは、私とメア君を交互に眺めてから何か気付いたような表情となる。
「あ、もしかして二人ともどこか行くところだったのか?」
私とメア君の荷物を見て気付いたらしいローズさんが、そう私たちに聞いてくる。私は「うん」と頷いた。
「メア君と……ちょっと、おこづかいかせぎ、に……」
「大冒険です!」
「つまり、お小遣い稼げる冒険かな?」
「まぁ、かんたんに、いうと……そう……」
私が頷くと、ローズさんは「なんだか面白そうだね」と期待した表情で言う。そうして彼は続けて、私たちにこう言った。
「俺もぜひ行ってみたいんだけど……ダメかな?」
「え……おこづかい、かせぎ、に?」
「あぁ」
笑顔で頷くローズさんを見て、私は少しだけ考え込む。一方でメア君は嬉しそうな表情で、「ローズさんも行くです?!」と目を輝かせた。
「行きましょうー! だいじょぶです、ローズさんは俺が守りますー!」
「え、何か危ないの?」
「ぜんぜん、あんぜん、だよ……ついでにいうと、メア君、戦えないじゃん……どうまもるの……」
「戦えます! ほら、ぱんちできますから! えい、えいえいっ!」
一人でにくきゅうぱんちモードに入ったメア君は無視して、私は心配そうな表情になったローズさんに声をかける。
「だいじょぶだよ、本当にキケンはないの……まものとか、でないし……すぐちかく、だし……」
「そうなのか……なら安心だけど」
「よわよわなメアくんといっしょに、キケンなとこは、いけないからね……」
「誰がよわよわですか! 強い男だって言ってるのにー!」
なんか言ってるメア君はやっぱり無視して、私はローズさんに改めて問いかける。
「それじゃ、いっしょに……いく?」
私の問いに、ローズさんは優しく微笑んで「ぜひ!」と返事を返した。
イシュエルには出かける話をして家を出た私は、メア君とローズさんを連れて古い坑道へとやって来た。
資源に乏しい国なので、採掘のためにかつて利用されていた洞穴のような坑道は国内の至る所にある。
その内の現在は使われていないところの多くは、危険な為に立ち入り禁止の場合が多い。
しかし稀に規制もなくほったらかしにされている場所もあり、管理がずさんであるのだからそういう意味では相当に危険だと思うが、勝手に立ち入るのには都合のいい坑道もあった。
私が今日来たのもそういう場所である。以前に見つけたこの場所に私はメア君とよく忍び込んで、呪術の触媒に丁度良い鉱物を持ち帰っていたりした。
「こ、ここに入るのか……?」
目的地に着くと、ローズさんはなんだか強張った表情でそんなことをぽつりと呟く。目の前の真っ暗な坑道の入り口を見ながら、私は「うん」と頷いた。
「真っ暗だな……」
「だって、だれもいないし……あたりまえ、だよ?」
「そ、そうか……」
暗闇に阻まれて一切先が見えない坑道の入り口に不安を感じたのか、横目で見たローズさんはやはり引き攣った表情をしていた。
「あ、もしかして……くらいとこ、こわい?」
私がそう問うと、ローズさんはあわてたように首を横に振って「そんなことはない!」と返す。その彼の様子に、私は少し笑ってしまった。
「だいじょぶ、だよ……メア君もね、くらいの、こわいってうるさいから、ちゃんと明かり、用意してある……」
「ちょっと、俺がうるさいってなんですか! 暗いのだって怖くないし!」
「ふーん……」
「信じてない顔してる!」
なんかまた色々言いだしたメア君は無視して、私は「カスパール」と小さく呟く。私の中に存在する”それ”は、私の呼びかけに反応して黒い霧のように私の中から溢れ出した。
「!?」
顕現したカスパールは私の手元で、漆黒の中に小さな蒼い光を放つ照明具の形を成す。それを見て、ローズさんが驚愕に目を見開いた。そんな彼の反応に気付き、私は顔を上げてローズさんに微笑む。
「だいじょぶだよ……これは、カスパール……わたしの、ぶきみたいなものだから……でも、このとおり、べんりで……あかりにも、なったりして……」
私の説明に、だけどローズさんの表情はしばらく硬直したままだった。そう、このときの私は彼が驚愕する本当の理由をまだ知らずにいた。
「……ローズさん? どうした、の……?」
不思議そうに私が問うと、じっとカスパールを見つめていたローズさんは、はっとした様子で私と視線を合わせた。そして彼はどこか動揺の感情が残る笑みを私に向け、「いや」と曖昧に返事を返す。
「なんでも……ない……」
「そう……?」
曖昧な表情のままに再度首を横に振ったローズさんを、私は不思議そうな眼差しのままに見つめ、やがてメア君の「行かないんです?」という呼びかけでその視線を彼から逸らした。
「あかり、あるけど……でも、くらいから、あしもと……きをつけてね……」
私より先を行くナマミソちゃんを先頭に、その後に私、メア君、ローズさんという順番で坑道内へと足を踏み入れる。
暗い中も平気で進んでいくナマミソちゃんを追いかけながら、私は二人を先導する形で歩みを進めた。
「……メア君、いつも思うんだけど……そんなに、わたしのふく、ひっぱらないで……やぶける……」
「引っ張ってません!」
暗いのが怖いのか、メア君は私の服の裾を掴みながら私の後を歩く。別にそれは全然いいんだけど、ちょっと引っ張りすぎで前に進みにくい時があるから困ってしまう。
「こわいのはわかるけど……ひっぱりすぎだよ……」
「怖くないです!」
「そんなにこわいなら……て、つなぐ?」
「だから怖くないって言ってるじゃないですか! 手なんて繋ぎませんよ、子供じゃあるまいし!」
ちらっと後ろを振り返ると、メア君は右手で私の服を掴みながら、左手でたまさんの人形を形が変わる勢いで抱きしめていた。怖くないらしいが、たまさん人形の変形具合はどうみても怖い気持ちを反映しているように思う。
ふと思い、私はうさこの姿を探す。するとうさこはローズさんが持ってるようで、もしメア君が抱きしめてるのがうさこだったら、うさこの形が相当変形しちゃうだろうなと私はぼんやり考えた。ついでにちょっと見てみたいと、正直なことを心の中で思った。
「……ねぇ、メア君……ローズさんに、うさこ、持たせたら……めいわくじゃない、かな。自分でもったほう、が……」
「あ、俺は大丈夫だぞ。気を使ってもらわなくて大丈夫だ」
「そう……ざんねん」
「え?! な、なぜ?!」
思わずぽつりと呟いてしまった私の本音にローズさんは困惑していたが、私は答えることなく前を向いて歩みを進める。ナマミソちゃんは時々こちらを振り返りながら私たちを待つように止まりつつ、先導を続けていた。
しばらく三人と二匹で坑道内を進んで行くと、分かれ道に突き当たる。一方はやや緩やかな下り坂の道で、もう一方は明らかに地下へ続く石造りの階段だ。ナマミソちゃんは階段と下り坂の道の手前で止まり、後ろを振り返って待ってくれていた。
「あ、分かれ道だ」
私が立ち止まるとローズさんも分かれ道に気付いたようで、一緒に立ち止まって「どうしよう」と困った様子で呟く。しかし私もメア君も何度も来ている場所なので、この分岐で迷うことはなかった。
「階段下りた方がいいものあるんですよね、アネモネさん」
メア君の得意げな声に私は小さく頷き、「そうなんだ?」と聞くローズさんにも肯定の意味の視線を返す。
「なんども、ここは、きてるからね……こっちのほうが、ほしいもの、みつかりやすい……」
「へぇ、そうなのか」
私の返事を聞いて、ローズさんは「じゃあ、こっちに行くんだな」と階段を指差す。だけど私は少し考えた後、緩やかな下り坂を指差した。
「ううん……きょうは、こっち……いってみる」
「え?!」
私の言葉に驚きの声を上げたのはメア君だ。ローズさんも驚いていたが、彼以上にメア君は「そっち行くんですか?」とびっくりした様子だった。
「うん……たまには、ね……こっちは、あまり探索してなかったし……もしかしたら、なにか、あるかも……」
「そうです……? まぁ、いいですけど」
私の気まぐれな意見にメア君は少し不思議そうな表情をしたけれど、でもとくに反対はしなかった。ローズさんも同じで、「じゃあそっちに行ってみるんだな?」と、私に笑顔で問いかける。
「そうだね……いってみよう」
私がそう言うと、ナマミソちゃんも私の言葉を聞いてなのか、階段ではない道へと進み始める。私たちも、ナマミソちゃんの後を追うようにして歩みを再開させた。
「ううぅ、相変わらずこっちは足場が悪いです……」
下り坂の道を選び進みだした私たちだが、少々こちらの道は泥濘や突き出た岩で足場が悪い。今にも転びそうな足取りでゆっくり進むメア君は、泣きそうな声で不安を訴えた。
「メア君、だいじょぶ?」
「へーきですっ!」
強がるメア君が心配になってちらっと後ろを振り返ると、いつの間にかメア君はローズさんと手を繋いで歩いていた。私と手を繋ぐのは拒否したのに、この差は一体……。
「メア君なら大丈夫だよ、転ばないように俺が気をつけているから」
府に落ちない私の視線に気づいたらしいローズさんが、優しい笑顔を私に向けてそう言う。するとすかさずメア君は、「違います!」と言った。
「俺が、ローズさんが転ばないように気をつけてるんですよ!」
「ははは……」
苦笑いするローズさんに私も同じ笑みを返し、そして再び前を向く。その直後だった。
突如として坑道内が揺れ、重い地響きが唸る。
「!?」
「ひゃああぁあっ!」
反射的に振り返った先には焦るローズさんの顔と、悲鳴を上げるメア君の姿。私はナマミソちゃんを抱きよせて、「メアくん!」と二人に手を伸ばした。
そうして駆け寄ろうとした私を翻弄するかのように、止まない地響きと共に足元が悪夢のように崩れ落ちる。
「きゃあああぁあぁっ!」
突然の事態に混乱する頭が地震と崩落を理解するより先に、私は崩れた足元と共に下へと落下する。メア君とローズさんの叫び声は、土煙を上げて崩れ落ちる岩盤の崩落音に掻き消された。
「きゅきゅ~! きゅきゅきゅ~!」
「……ん……」
何かひんやりとしたものに頬を叩かれる感触に、ゆっくり目を覚ます。まだぼんやりする視界の中で徐々に焦点を合わせると、すぐ傍でうさこが私の頬を叩いていた。
「きゅきゅーっ!」
「……うさ、こ」
呟きながら、ゆっくり体を起こす。すると体中で鈍い痛みが走り、思わず私は顔をしかめた。
「っ……」
「アネモネさん!」
痛みに耐えてなんとか上体を起こすと、背後でメア君の呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、崩れ落ちた大小の瓦礫が周囲に散乱していた。小さい小石サイズから2メートル近くありそうな巨大な岩まであり、大きなものが直撃していたらと思うとぞっとする。
「めあ、くん……?」
呼び声の先には崩落した瓦礫の山があり、声はその向こうから聞こえる気もする。傍を浮遊していたナマミソちゃんが瓦礫の山に近づき、動けないほどの怪我は無かった私もうさこを抱いて立ち上がった。
「アネモネさん、よかったです……気がついたんですね!」
瓦礫の隙間を覗き込むと、その向こうに涙目のメア君が見えた。その瓦礫の穴は小さな穴だけど、手くらいは入れられそうだ。
「きゅっきゅ~!」
私がメア君に何か返事するより先に、腕から飛び出したうさこが穴の中に頭から突っ込んでいく。そのままうさこは穴の向こうへ行き、メア君と同流したようだった。
しかしどうやら私とメア君を隔たる瓦礫の山に唯一あるこの小さな穴は、うさこくらいしか通れそうもない。
「めあくん……だい、じょぶ?」
穴を覗き込んでメア君に問うと、メア君は頬に少し傷をつけながらも無事な様子で、「だいじょぶです!」と元気に返事を返す。
「ローズさんも、たまさんの人形も平気です!」
人形の情報は別に私にしなくてもいいかな……と、思いつつ、私は「そう」と安堵の息を吐く。とりあえず皆無事なのはよかったと思ったのもつかの間、私は瓦礫に分断された現状に表情を歪めた。
「まいったな……これは合流が難しいかもな」
メア君の後ろでそう呟くローズさんの声が聞こえる。確かに彼の言うとおり、瓦礫は大きく積み重なっており、これを退かして合流するのは崩れ落ちる危険などが予想されて難しいと感じる。
私は少し考え、やがて意を決した表情で瓦礫の向こうにいる二人に向けて言った。
「……ふたりは、そこで、まってて……わたし、そっちいけないか……みち、さがしてみるから」
すると私のこの言葉に、メア君が驚いたように「えぇ?!」と声を上げる。彼は穴の向こうでひどく不安そうな表情をして、私を見つめた。
「だ、だめですよ。一人で動くなんて危険です」
「でも、メア君と……ローズさん、うごくのも、きけんだとおもうの……」
メア君は子供だし、ローズさんはちょっと前まで記憶喪失で倒れていたわけだし、二人だけで行動させるのはなんとなく不安だ。
それに私はこの内部を多少は把握しているし、カスパールが明かりとなるから行動しやすい。
「だいじょぶだよ……メア君、ローズさんとまってて」
「で、でも……!」
心配した眼差しを向けてくるメア君に、私は安心させるように微笑む。そして私はカスパールの光の一部を切り離して、穴を使ってメア君に手渡した。
「まっくらで、こわいからね……メア君、ないちゃうからね……」
「な、なきませんよ!」
もうすでに涙声のメア君をからかうようにそう私が言うと、メア君は強がりな返事を返してくれた。そのメア君の反応を見て、なんだか安心してしまう自分がいる。
「それじゃ、まってて……」
そう言って、まだ何か言いたそうな眼差しを向けるメア君に背を向けて私は立ちあがる。その時、背後でローズさんの叫びに似た声が聞こえた。
「なにかいる……っ!」
「え……」
ローズさんの言葉に驚き、私とメア君が同時に声をあげる。見開かれた私の眼差しには小さな穴と、その先にいるメア君しか見えない。だけど気配を澄ますと、確かに瓦礫の向こう側に二人以外の不気味な気配を感じるような気がした。
「ひえっ……」
「メア君、あかりを……」
驚き怯えるメア君を後ろに庇いながら、ローズさんは彼からカスパールの明かりを受け取る。見えぬ”なにか”と対峙する彼らの緊張が瓦礫を挟んだ私にも伝わり、私は無意識に息をのんだ。
「っ……メア君、ローズさん……!」
緊張と恐怖で、彼らを呼ぶ私の声は掠れる。小さな穴の向こう、その暗闇の先で何が起きているのか知りたくて、私は瓦礫に体を押し付け穴を覗き見た。
***
「ろ、ローズさん……!」
背後に聞こえる少年の声は震えており、俺は前方を警戒しながらその声に「大丈夫」と短く返した。こんなありきたりな一言じゃ、彼の不安はぬぐえないとはわかっていたけど、それでも無言でいるよりはだいぶマシだろう。
小さな手で俺の服を掴む彼を安心させたいから、俺は言葉を付け足す。
「君は俺が守るよ。君も、うさこさんも……アネモネさんも」
俺は俺が何者かわからなかった。覚えているのはただ一つの名前、ローズのみ。
その名前の意味を、俺はアネモネさんに教えてもらっていた。俺の名はおそらく、同じ名を持つ花の名前なのだ、と。
白や黄色や、それに深紅のその花は大輪に咲き、だけどその影に鋭い棘をも持つらしい。その棘は手折る手を伸ばした人を傷つける、自己防衛の小さなそれ。
――ならば俺も、その花と同じになろう。
「”カスパール”」
明かりとして受け取ったその武器の名を呼ぶ。いいや、これは武器なんかじゃない。
俺はこれが何かを知っていた。思い出したんだ、名前以外のことをほんの少しだけ。――……でも、なぜ?
カスパールが照らす明かりが強さを増し、暗闇の奥を青白く照らし出す。そしてついに、奇妙な気配の姿をその蒼の中に見せた。
「ひゃあっ……! モンスターです、なんでここに……っ!」
メア君が俺の後ろで小さく悲鳴のような声を上げる。視線の先に照らされ見えたのは、人の形をした”なにか”だった。
どろどろに溶けたような肌は明らかに生者の色ではなく、土気色をしたその存在は人型であって人ではない。虚ろな表情にある眼差しはただ黒く開いた穴で、そこに人の意志はなかった。
「1、2……5匹だろうか。少し多いな」
ゆっくりと近づいてくる魔物の数を数えながら、俺はメア君を庇うようにもう一歩と前へ出る。そうして俺は懐から小さな呪術書と、それと呪術の触媒となる鉱物を数個取り出した。
大丈夫、相手の動きは速くない。場所も少し狭いが、”彼女”を呼び出せない広さではない。だから俺だけでもやれる。
『wIShROsEFoRcEseEk』
どうしてか俺は呪術を知っていた。思い出したというべきなのだろうか。ううん、それも正確ではない気がする。
やっぱり”知っていた”という表現が一番正しいように思える。アネモネさんの呪術書を見て、それに気付いた。
俺は呪術を――”彼女”を召喚する方法を知っている。
人が呼吸の仕方を他者から教わることなく行えるように、俺にとって”彼女”の存在とその召喚の呪術は意識せずも知っていて当たり前のことだった。……それが、なぜなのかはわからなかったけど。
『caLLldarkNeSsCAlLcHaoScaLl』
死者のような、あるいは泥人形のような外見の魔物は、ゆっくりとだが確実に俺たちに近づいていた。
呪術はその発動に時間がかかるのが難点だ。だが焦って詠唱を間違えたり、召喚の手順を間違えるのは最悪の結果にしかならない。
俺は内心で相当に焦りつつも、しかし冷静を装い詠唱を続けた。
確実に迫る得体の知れない恐怖に、呪文を詠唱する舌は渇く。だが、少しだ。
『curSEsUmMonS――geis』
握りしめた触媒を宙に撒きながらの詠唱を終える。細かな触媒の最後の一粒が地面に落ちた瞬間、散らばって落ちた触媒が一斉に白銀に光りだす。
坑道内を照らす白銀の光の先では、魔物がもう目の前に迫っていた。そんな状況の中で、俺たちと魔物の間を遮るように”彼女”は光と共にその場に姿を現す。
闇を照らす白銀の光が眩しい視界の中で、赤い花の花弁が血飛沫のように激しく舞い散った。
「ゲシュ……」
舞い散る鮮血のような花弁の中で、”彼女”は漆黒を全身に纏い佇んでいた。肌も長い髪も身に纏う衣装も何もかもが、闇が形作った影のように黒い。
ただ唯一、両の眼差しだけが深紅の色に輝く。その姿はまさに異形だった。人の形を模した、人ならざるもの。
「ゲシュ」
もう一度、俺は”彼女”の名を呼ぶ。彼女は俺たちに背を向けたまま振り返ることはない。だけど彼女が俺の呼びかけに反応したことは、俺にはわかった。
「頼む、”また”俺に力を貸してくれ」
頭の両側で結んだ長い髪が僅かに揺れ、彼女が頷いたように見えたのは気のせいだろうか。
禁忌の名を持つ彼女は、もう眼前にまで迫った敵に向けて触手のように変形させた両腕を伸ばした。
そのまま彼女はまるで絡みつく蔦のように伸ばした両腕で魔物を捕え、絡めたそれで静かに締め上げる。
一見静謐な攻撃だが、締め上げる彼女の力は凄まじく、触手に捕えられた魔物は柔らかな水風船のように破裂して肉片を散らした。
まずは二匹。だが、まだ敵は残っている。しかし心配せずとも、瞬時に触手を通常の腕に戻した彼女は間髪入れずに次の行動に移っていた。
一閃。横に薙ぎ払われた腕の一振りは無音で闇を切り裂く。一見攻撃には見えないそれは、だけどその先に存在していた魔物の異変で攻撃だと証明された。
人型の魔物は上半身と下半身が分離し、下半身と物理的に繋がりが無くなった上部が崩れるように地に落ちる。
『オォ……ォ……』
濁音の悲鳴のような声は、両断された魔物の呻き声だったのだろうか。
何もない宙を薙ぎ払ったと見えた彼女の一閃は不可視の衝撃波を生み、眼前の魔物を一刀両断に切り捨てていた。
それでも地に落ちた魔物の体は、まだ泥のように這って動く。その動きは、断ち切れた自身の肉体を繋げて修復しようとしているように見えた。
この状態になって動くことに俺は内心で驚いていたが、彼女は――表情が黒く見えないのだからおかしな表現だが――表情を変えることなく、無慈悲に静かなとどめを放つ。
『―――――』
声無き声で何かを呟いた彼女の周囲に黒い霧のようなものが立ち込め、凄まじい勢いで体積を増すそれは魔物を包み込むように包囲する。やがて完全に包囲すると魔物は黒い闇に見えなくなり、そのまま立ち込めた靄は彼女の中に戻るようにして霧散していく。
黒き霧が完全に消えたころには、魔物の姿は破片のひとつも残すことなく消えていた。
そうして坑道内を壊すことなく自身の役目を終えた彼女は、俺を見ることもなく影が光に照らされて消えるように一瞬で姿を消す。
まるで今の出来事は全てが夢か幻かのように、魔物の存在も含めて全てを消して、彼女はどこかへと静かに戻っていったのだ。ただ唯一、深紅の花弁が彼女の存在を証明するように、微かな香りと共に周囲に舞い散っていた。
「……はぁ、こわかった……」
無事に自分の力で撃退出来たことに安堵し、俺はそう正直な言葉を呟いて胸を撫で下ろす。
本当に俺の力で撃退できるのかと不安があったことも確かなので、無事にどうにかなったとわかった途端に緊張の糸が切れてどっと汗が額に滲んできた。
「メア君、だいじょうぶ……? うさこさんも……」
ふとメア君たちは大丈夫かと後ろを振り返る。メア君もうさこさんも大丈夫なようだったが、しかし振り返った先に見たメア君の様子は少しおかしかった。
メア君は何か怯える様子で、じっと俺を見上げている。
「メア君?」
不思議に思い俺が声をかけると、メア君は俺を見上げたまま、泣きだす寸前のような声で俺にこう言った。
「いまの……アネモネさん?」
「え……?」
◆◆◆
あの後……坑道でいるはずのない魔物に襲われた出来事の後、俺とローズさんはアネモネさんと合流してどうにか家に帰ってきた。
でもローズさんが魔物を倒してくれた後、アネモネさんは瓦礫の向こうで何故か気を失っていた。だから結局俺たちが道を探して、アネモネさんと合流したのだけど……。
アネモネさんがどうして気を失っていたのかはわからないし、ローズさんが家に運んだ後もアネモネさんは目を覚まさないし、無事に帰ってこれたことは嬉しいはずなのに今もなんだかもやもやとしてしまう。
それに俺はあの時に見たローズさんの召喚した”なにか”がどうも心に引っかかって、今も夜遅い時間だというのに眠れずにいた。
「……ローズさん……ちがうって、言ってたな」
ベッドの上でごろごろしながら、俺はぽつりと呟く。傍で眠そうなうさこが「きゅ?」と小さく鳴き、俺は『なんでもない』という意味で首を横に振った。
(でも、ローズさんが召喚したあの人って……)
俺たちを助けるためにローズさんが呼んだのは、全身が真っ黒い影のような不思議な人だった。後ろを向いていたようだったし、そうでなくても影みたいに全部が黒くて顔なんて見えるはずもない。
だけどその人を見た瞬間、俺は何故か『アネモネさん』って思った。
それを問う俺にローズさんは苦く笑って『違うよ』と返したけれど、でも俺はどうして自分がそんなことを思ったのかも含めて色々納得していなかった。
「ホントに違うのかな……でも、アネモネさんの様子も、おかしいし……」
「きゅきゅ~?」
「あ、うさこ……なんでもないよ、もう寝る?」
心配そうな顔で俺を覗き込むうさこに、俺はそう言ってぷにぷにと柔らかい耳を指先で突く。うさこはくすぐったそうな顔をした。
そのまま俺はうさこを抱えて、布団に潜り込む。
(本当に、なんでもないといいけど……)
目を瞑るうさこと、それと大事なたまさんの人形を抱きかかえて、俺は不安な気持ちのまま目を閉じた。
朝になれば、いつもどおりのアネモネさんが俺とうさこを起こしに来てくれるはずなんだと、それを願いながら。
【END】
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アネモネ
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