アネモネのPSO2での冒険の記録です。
マ○オが攻略できないライトユーザーなので、攻略に役立つような内容はないです。
まったり遊んでる記録を残してます。更新も記事の内容もマイペースです。
リリパ成分多め。りっりー♪
(所属シップ・4(メイン所属)&10 メインキャラ:アネモネ サブ:メア、アネモネ(デューマン) 他)
※ブログ内の私のイラストは転載禁止です。
16期メインのローズ君!
15期は久々に物語も書いてたんですよね。
16期はアネモネをメインからサブにして、メインを新しく男の子にしようと思って。
そのための物語を書きました。
追記はその、アネモネに異変が起きて大変なことになる15期のストーリーですの。
【15期ストーリーその1】
かつての私は、よく夢を見ていた。
それはひどく怖い夢だった。毎夜見ていたのは、何度も繰り返される私自身の”死”。
夢の中の私は、いつでも泣いていた。痛くて、苦しくて、つらくて……最後、いつも訪れる結末は救いのないもの。
誰も私を助けてはくれなかった。夢の中でさえ。
私は夢が嫌いだった。
だけど、やがて私は夢を見なくなった。いつからそうなったのだろうか。
目を閉じれば、何も見えない。ただ暗い闇に意識を落として、目覚めの朝が来るのを待つ。
そうして朝が来て、『あぁ、よかった』と、目が覚めることに対して自分でも理由のわからない安堵を思いながら、夢の無い目覚めを繰り返す。
それが”異常”だとは、ただただ悪夢に怯えていた私は気付かずにいた。
◆◆◆
「……モネさん……アネモネさんっ」
メア君の呼ぶ声で、私は意識を現実に戻す。はっとした様子で振り返った先には、怪訝な表情のメア君が私を見つめて立っていた。
「何ぼーっとしてるんですか」
「……フツーだよ?」
小さく笑いながらそう返した私に、メア君は怪訝な表情のまま「そうです?」と呟く。
「まぁ、いつもぼーっとしてるのがアネモネさんらしいと言えば、たしかにそうですけど」
「メア君、は……ひどいね……」
「はぁ?! 普段ひどいのはどっちですか!」
急に怒り出したメア君を不思議に思いながら、私は「それより」と彼に言葉を続けた。
「なにか、よう? よんだよね……わたしの、こと」
「用っていうか……そろそろ帰りません?」
メア君は眠そうな様子のうさこと、それとたまさんの人形を大事そうに抱えながら、私を見上げてそう訴えるように答える。
会話する私たちの口から吐き出される言葉には、真っ白な吐息が混ざっていた。
「寒いし」
ここは北の大国・ヴァルトリエ。年の多くで雪が舞う凍った大地はどこか暗く、寂しい。
だけど吐く息を白く染めるこの場所が私の故郷で、守るべき場所でもある。
「そうだね……このばしょは、さむいね……」
肌に痛いとさえ感じることがあるこの寒さが、ヴァルトリエらしさでもあるのだろう。それをぼんやりと思いながら、私はそう言葉を呟いた。
すると直後にメア君は、なんだか怒ったような様子で私にこう言う。
「そろそろ夜になっちゃいますよ?! そしたら、もーっと寒くなっちゃうんですから!」
メア君は私から視線を外し、周囲を見渡すように視線を移動させる。
私たちが今立つこの場所は、鬱蒼とした木々が生い茂るヴァルトリエの北の森だ。ここは昼間でも暗い場所だが、今は尚更に暗く寒い。
こんな辺境にまで攻め入ってくる他国の傭兵はいないだろうが、しかし時々ここは魔物が出るという噂がある少々危険な場所でもあった。
「こんな……散歩とか言って、な~んにもない森に来て……ホント、何なんですか! 暗いし怖いし何も無いし、早く帰りましょうよー!」
「……こわいんだ」
「こ、怖くないです!」
たった今自分で『怖い』と言ったのに、それを否定するメア君に私は少し怪訝な表情を浮かべる。そんな私を無視して、メア君は「それより!」と続けた。
「怖くないけど、帰りましょうって! ホント、なんでこんなとこに来たんですか……何か用事でもあるんです?」
メア君の疑問に、私は少し考えるように沈黙する。その沈黙がまた不安を煽ったようで、メア君は泣きそうな顔をした。
「だ、黙らないでくださいよ~! 何なんですか、ホントにーっ!」
メア君があまりに怖がるので、ナマミソちゃんが傍に寄って心配そうにメア君の頭をなでる。私はそんな光景を少し笑いながら見つつ、口を開いた。
「ごめん、ね……ちょっと、わたし……ここ、知ってるんだ……」
「え?」
私の一言に、メア君は目を丸くする。すぐに「どういうことです?」と、彼は続けた。
「知ってるって……ここ、来たことあるんです?」
「そうかも、ね……」
私のあいまいな返事に、メア君は怪訝な眼差しをこちらに向ける。
「そうかもねって、なんですか……知ってて、それでどうしてここに? やっぱり用事があったんですか?」
「……わからない……ただ、なつかしい気がしたか、ら……わたし、ここに、来た……たぶん、そうなの……」
「はぁ……」
首を傾げるメア君に、私はただ曖昧な笑みを返す。そうして私はナマミソちゃんに手を伸ばした。
「おいで、ナマミソちゃん」
ナマミソちゃんはメア君から離れて、私の傍に寄る。そして私がナマミソちゃんを腕に抱きしめた時、私たちのすぐ傍で突如転送の光が輝いた。
驚く私とメア君の視線の先で、白い輝きは人の姿を成す。転送の光の中から現れたのは、”私によく似た人”だった。
「あ、ナマモネさん」
少し怯えていたメア君が、知った人物が現れたことに気づいて、安堵の表情になりながらそう声を上げる。だけど私の表情は、彼のように安心したものには変わらなかった。
「アネモネ、”また”ここに来てたのです?」
突如現れた彼女は、私を見るなりそう硬い言葉を向ける。
私によく似た……ううん、私と同じ蒼い瞳が、鋭い眼差しで私を見つめる。その瞳が私に向ける感情の意味は、鈍感な私でも気付いてしまう明確なものだった。
「また?」
私が何か口を開くより先に、メア君が小首を傾げながら私たちに問う声をあげる。メア君は私に視線を向けたが、私は沈黙したままだった。
そんな私の代わりに、ナマモネがメア君の問いに答えるようにこう言う。
「ここには近づくなって、以前私は言いましたよね? なのに、なぜあなたは……」
どこか苛立ったようなナマモネの声。いや、怯えているのかもしれない。
なぜかはわからないけど、彼女はこの場所を怖がっている。なんとなく、そんな気がした。
「……どうして、ここ……ちかづいたら、ダメなの?」
私は彼女が言うとおり、以前もこの場所に立ち入っていた。まるで何かに誘われるように、私は何もないこの暗い森に興味を抱いて足を向けた。
だけどその時は今と同じで、突然現れたナマモネに森への立ち入りを拒まれたのだ。一体ここは何なのだろう。
彼女がこの場所に怯える理由と、私のこの場所への興味はきっと何か関係している。私はそれを内心で確信しながら、ナマモネに聞いた。
どこか顔色の悪いままに、ナマモネは私の疑問に対する答えをこう返す。
「それは……ここは危険だから……魔物も出るかもしれないし」
「わたし、たたかえる、よ……」
私の一言に、ナマモネはまた少し苛立った表情を浮かべる。だけど彼女はあくまで冷静に、私を説得するような言葉で自身の苛立ちを隠した。
「そういう問題ではないの。それにメア君だっているでしょう? あなたは誰かを守れるほどに強いわけではないのですし、むやみに危険がある場所に行くべきでは無いわ」
「……ちがうよ……きっと、それは……ホントの、りゆうじゃない……」
思わず私がそう呟くと、ナマモネの表情が変わる。彼女は目を見開き、一瞬僅かに戸惑った様子を見せた。
私はナマミソちゃんを抱きしめながら、小さく「ちがう」と繰り返す。
「あなたは……わたしに、たくさんのこと、かくしてるから……きっと、ここも……わたしに、しられたくない、なにか……あるんでしょう?」
「何を……言って……」
私が気付いていないとでも思ってたのだろうか。ナマモネは動揺した様子を見せ、私を見つめる。
私は彼女は思っているほど、頭が悪いわけじゃない。彼女や、それにイシュエルが私に何かを隠していると、それに気付く程度には能天気じゃない。
「このもり、は……わたしと、あなたにとっての……なに? どうして、おしえてくれない、の……?」
「……あなたが何を言っているのか、理解できません。何も関係などありませんよ」
「うそ……どうして、あなたも……イシュエルも、わたしに、隠すの……?」
「嘘なんてついてない! 何も隠してなどいないっ!」
僅かに声を荒げたナマモネに驚いて、一瞬肩を震わせる。ナマモネは苛立ちを隠しきれない様子で、鋭い眼光で私を睨みつけていた。
「ふ、ふたりとも……どうしたんですか、急に喧嘩しないでください」
私たちの様子に、メア君が心配した表情でそう割って入る。私はそんなメア君に、「喧嘩じゃないよ」と言った。
「ただ、ナマモネが……わたしに、なにか、かくすから……」
「隠してないって言ってるでしょ! なんで言うこと聞かないの! あぁ、もう……っ!」
いつも冷静で落ち付いているナマモネは、だけど今はひどく動揺して口調が荒く、まるで別人だった。でもきっと”こっち”が本当の彼女なんだろうと、私は漠然と思う。
どうしてそう思うのかは、わからないけども……。
「隠してなんかいない……私は、ただ……っ!」
いつの間にか蒼白な顔色になっていたナマモネは、ブツブツとそう何かを言いながら落ち着かない様子を見せる。そんな彼女を見て、私は強い不安を感じた。
やがてナマモネは顔色悪いままに、唐突に私たちに背を向ける。呆然とただそんな彼女を見つめる私たちに、ナマモネは背を向けたままこう言った。
「……じゃあ、好きにすればいい。でも……後悔はした後じゃ遅いのよ、アネモネ」
「え……?」
意味深な言葉を残して、ナマモネはまた転送の光の中に消えていく。
私とメア君はおそらくはセーレによって転送されていく彼女を、ただ見送ることしかできなかった。
「……ねぇ、アネモネさん」
しばらくは茫然とたたずむようにしてナマモネが消えた後を眺めていた私に、メア君がどこか遠慮がちに声をかける。
「なぁに?」
振り返り、私がそう彼に返事をすると、メア君はやはり不安げな表情でこちらを見つめていた。
「ナマモネさんの言ってたこと、どういう意味でしょう?」
「さぁ……わからない、よ」
そう、わからない。それが正直な感想だった。
結局ナマモネはイシュエルと同じで、大事なことを私に話してくれないのだから。
でもナマモネの言葉にいい予感はしないと感じたのは、私もメア君も同じだった。
「なんか、ナマモネさん警告してましたね……やっはもう帰った方がいいですよ」
「こわい……?」
「こ、こわくはないですけど……」
メア君は俯きながら、私の言葉にそう返事を返す。そんなメア君が少し可愛くて、だけど、だからこそ私はやっぱり少し心配になった。
「そう、だね……メア君、キケンなめに、あわせられないものね……どうしようか」
ナマモネも言っていたが、たしかにメア君を危険な目にあわせられない。
この場所は何か気になるけども、でもやっぱり彼女の言うとおり引き返した方がいいのかもしれないとも、少し思う。
「メア君、ケガしたら……ヤダものね……たまさんに、わたしが、おこられちゃう」
「お、俺だって何かあったら戦えますよ! 一人で戦える強い男ですからね! たまさんにぱんちも教わったんですから!」
「はいはい……」
「あ、なんですかその反応! なんかばかにしてるー!」
対になった黒い羽をばさばさと揺らしながら怒るメア君から視線を外すと、ふとナマミソちゃんが私の腕から飛び出してどこかへと向かいだす。
「ナマミソちゃん?」
私が声をかけても、ナマミソちゃんは止まることなくどこかへ向かって進んでいってしまう。好奇心旺盛な精霊の進む先は、なお暗い森の奥だった。
「ま、まって……ナマミソちゃんっ」
あわててナマミソちゃんを追いかけると、メア君も「一人にしないでくださいー!」と言いながら私たちの後を追ってくる。そうして私たちは結局、更に森の奥へと進んでいった。
私とメア君はナマミソちゃんを追いかけて、森の深く奥までやってくる。日はすでに落ちる寸前で、小さく舞う雪の白さえも闇色に陰っていた。
「うぅー、アネモネさんどこまで行くんですかーっ」
「だって……ナマミソちゃんが……」
ナマミソちゃんは時々立ち止まって、私たちが追いかけて来るのを待つような様子を見せる。その、まるでどこかに案内しようとしてるかのような姿がとても気になった。
「ナマミソちゃん……どこ、いくの……?」
「みっ……!」
やがてナマミソちゃんは木や植物の蔦が絡み合い、視界を遮るように茂る場所へと飛び込んでいく。私とメア君は一瞬迷ったが、ナマミソちゃんの後を追って同じようにその茂みの中へと入ることにした。
まるでそこは、木々や植物で作られた檻のようだった。あるいは、外界から切り離されたように植物に守られた空間。なぜかわからないけども、そこに私は妙な胸騒ぎを感じた。
「なんだ、ろ……ここ……」
そっと手を伸ばし、硬く絡み合う植物に触れる。
複雑に絡み合う木や蔦は、外から中を守っているのか、それとも……――
「うぅ……なんか、痛い……これ、トゲが……薔薇の花?」
茂みをかき分けながら進むメア君が、少し泣きそうな声でそんなことを呟く。私もちくちくとした痛みを感じながら、両手で中へと入る道を作りつつ”そこ”へ立ち入った。
「……!」
もう周囲は完全に日が落ちて、雪が舞う夜の暗さになっていた。
そのはずなのに掻き分けて立ち入ったその先は、薄蒼い光に照らされている。それは覆いかぶさる木々の隙間から零れ落ちる、寒々とした月の明かりだった。
ううん、私が驚いたのはそんな明かりではない。明かりが照らすその先、一番に目に飛び込んできた存在に私は驚愕し目を見開いた。
「あっ! 人……!」
私の後に遅れて中に入ったメア君も、私と同じ視線の先を見てそう驚きの声を上げる。そう、メア君が思わず叫んでしまった通り、そこには人の姿があった。
ナマミソちゃんが傍で漂いながら、そこに倒れる人を観察するように見つめている。私も驚いたままゆっくりと、月明かりの下で硬く目を閉じ仰向けに倒れる誰かに近づいた。
「男のひと、かな……」
私の後ろに隠れながら倒れている人を観察するメア君が、そうぽつりと呟く。私はそっと屈んで、その人が生きているのかを確認した。
こんな雪が舞う寒い森の奥で倒れているのだから、普通に考えて生きているとは思えない。しかし外傷は無いし、こんな場所でまるで何かに守られているかのように倒れている人だから、もしかしたらという思いもあった。
口元に手を当てると、驚いたことに呼吸があった。この人はこの寒い森の中で、ただ倒れて眠っているだけということだ。
驚きながらまじまじとその人物を観察してみる。その人は細身の男性で、青白い光の中にうっすら見える容姿は端整な顔立ちだった。
白い雪が僅かに積もりはじめた彼の黒髪は、先端がやや赤みがかっているように見える。不思議な色だなぁと観察していると、突如男性は小さく呻いて身動ぎをした。
「んっ……」
「ひゃっ……!」
驚いて思わず声をあげてしまった私は、直後になぜか反射的に口を両手で押さえる。そのまま彼をじっと見つめていると、男性は意識を取り戻したようで、ゆっくりと目を開けた。
「……」
ゆっくりと開かれた彼の瞳は、薄暗い光の中でもはっきりとわかる深紅の色。まるで燃え盛る炎……ううん、もっと深いその赤は血のようだと思った。
ぼんやりとした赤の瞳が、やがて焦点を合わせて私を見つめる。視線が直線で繋がったその瞬間、突然私の中に強烈な不安の衝動が生まれる。
心を支配する胸騒ぎに動揺していると、男性はその深紅の瞳の中に私を映しながら小さく唇を動かした。
「……しゅ……」
「え……?」
そのまま彼は再び目を閉じる。雪降る季節だと言うのに、彼の周囲では深紅の薔薇が小さく花を咲かせていると気付いたのはその直後だった。
◆◆◆
「で、また妙なものを拾ってきたなぁ、アネモネちゃん」
自室のベッドに寝かせた男の人を見ながら、イシュエルは小さなため息と共にそう呟く。
その彼を”拾ってきた”私を責めるようなイシュエルの言葉に、私は思わず苦い顔で縮こまった。
「だ、だって……ほっとけない、し……」
「そーですよ! あんな寒いとこ、ずっとほっておいたら死んじゃいます!」
私が小さくイシュエルに訴えると、メア君が私の後ろで私をかばってくれた。うれしいので、今度にぼし突き刺したケーキを作ってあげようと思う。
「ま、確かにそりゃそうだけどな。しかしアネモネ、よく森からこいつ運んできたなぁ」
森で見つけた男性を家へと連れて帰ろうと提案したのは私だが、たしかに意識の無い男性を抱えて運ぶのはかなり大変だった。
だからと言ってメア君にそんなことできるはずもないので、途中まで私が彼を肩に担いで運び、イシュエルに迎えにきてもらったのだった。
「うん……つかれた……」
「ははっ、おつかれさん」
イシュエルが笑いながら私の頭をなでる。私は反応に悩み、反応の代わりにふと思い出した疑問を彼に向けた。
「そういえば……ナマモネ、は?」
「ん? ナマモネ?」
見当たらない彼女の姿を疑問に思うと、イシュエルも「そういやどこ行ったんだろうな、あいつ」と答える。
「どっか買い物でも行ってるんじゃねぇの?」
「……そう」
見当たらない彼女の姿が気になったが、別に探す気になるほどではない。なので理解した返事だけ返した直後、眠っていた彼が小さく身動ぎをした。
「あっ」
びっくりしてまた思わず声をあげると、男性は再びゆっくりと目を開ける。二度目に見た彼の瞳は、やはり血みたいに深い赤だという印象だった。
「おっ、起きたぞ」
イシュエルはそう言うと男性に近づき、目を覚ましたばかりで天井を見上げてぼんやりとしている彼に声をかける。
「おはようさん。オニーさん、気分はどうだ?」
男性はイシュエルがそう声をかけるとゆっくりと視線を彼に向ける。だけどまだ状況が把握できていないようで、イシュエルの問いには答えない。
「おーい、オニーさんだいじょうぶ? まだ意識、夢の中?」
「……あなた、は……」
イシュエルがさらに反応を求めると、男性は初めてはっきりとした言葉を発する。少しかすれたその声は、戸惑いの感情が含まれていた。
「あぁ、俺はイシュエルだ。ホントはもっと長いけど……俺様の素敵なフルネーム、聞きたい?」
「いしゅ、える……」
男性はイシュエルのどうでもいい問いを無視し、今度は私に視線を向ける。
その深紅の瞳が私を見たのは二度目で、その瞳に捉われた瞬間に、私はまた理由のわからない不安を胸中に抱いた。
なぜか男性に対して恐怖に似た感情を抱く自分に戸惑いつつ、私は彼を見返す。
「……きみ、は」
「え、あっ……わたし、は……アネモネ」
私がそう小さく答えると、男性は少し考えるように目を細めてまた沈黙した。やがて彼は「アネモネ……」と、私の名を反復する。
「うん……」
「おぉ、ついでだし全員自己紹介しとくか。そっちの小さいのはメア君な」
私がまた反応に困っていると、イシュエルがそう言って男性に話しかけてくれた。
「小さくないです! 変な紹介しないでくださいよ!」
メア君が怒ったようにそう返すと、男性の視線はメア君に向けられる。見られてると意識した瞬間、少し人見知りなメア君は小さく「ひゃっ」と謎の奇声を上げて、私の後ろに隠れて大人しくなった。
「あとは、今はこの場にいないけど他にも何人かいるんだが……」
ナマモネやイリス、それにセーレやロットーなど、今この場にはいない人たちが何人かいる。彼らの紹介もしておくのかな? と気になった私だが、イシュエルはそれはしなかった。
「ま、居ない奴らのこと紹介しても一気におぼえらんねぇだろ。それよりオニーさんの名前を、俺らが聞いたほうがいいかな」
「それも、そーだね……」
確かにまだ彼の名前も聞いてないと、私はイシュエルの言葉に納得する。そうしてイシュエルが改めて、男性の名前を聞いた。
「それで、オニーさんの名前は? よければ雪の森の中でぶっ倒れてたらしい理由も聞きたいんだけど」
「なまえ……」
男性はまた少し考えるように口を閉ざす。その彼の様子に、何かを察したらしいイシュエルが苦い表情を浮かべた。
「え、ちょっとまって……おにーさん、まさかキオクソーシツとかやめてね? そーいうのはアネモネだけで十分だから」
イシュエルのそんな言葉に、男性は少し困惑したような様子を見せる。そんな男性の様子に、イシュエルはますますぎょっとしたようだった。
「ひえぇ……まさかホントに記憶喪失系? やだー」
「あ……なまえ、は……ローズです」
イシュエルが大きな体を丸めて泣く真似をしはじめると、男性は最初より少しはっきりした声で自分の名を名乗る。どうやら、”キオクソーシツ”ではなかったようだった。
「あぁ、なんだ、自分の名前言えるのね。よかったー」
「あぁ、そうだ、名前はローズ……ローズ・マイネイヒ」
「ん?」
ローズさんは自分の名前を思い出したようで、上体を起こしながらどこか安堵した様子を見せる。だけどイシュエルは怪訝な顔で、ローズさんを見返した。
「お前、今名乗った姓って……ホント?」
「ほんと、とは……?」
「あぁ、いや……まぁ、そんな珍しい姓でもねぇし、同じなこともあるか」
ぶつぶつと一人でそう納得したように呟くイシュエルを見て、私も首を傾げる。するとそんな私を見て、イシュエルは苦笑を洩らした。
「いや、お前と同じ姓だったから。……って、お前はそこらへんよくしらねーんだもんな」
「……あぁ」
イシュエルに言われて、自分の姓を思い出す。確かに私もそういう姓だったような気がする。私の記憶は曖昧だから、自信が無いのだけれども。
「まぁいいや、ローズさんね。ローズさんは一体なぜ森でぶっ倒れてたの」
イシュエルがさらに問うと、ローズさんは考えるように沈黙する。そうしてたっぷり一分くらいの沈黙の後、私たちの視線が集中する中で、やっとローズさんは口を開いた。
「……おぼえてない」
「そうか、おぼえてねぇのか」
ローズさんの返事にイシュエルは苦い笑いを返し、そして「まさか」と小さく呟く。一方でローズさんも、何か焦りの表情を浮かべていた。
「ええと、名前はそう、覚えてるんだ。名前は……あれ、でも……っ」
「あぁ、名前は覚えてるから俺も安心してたんだ。だが今のお前の反応を見て、俺も不安になってきたよ、ローズさん」
「ええと……」
ローズさんは気まずそうに顔を上げて、イシュエルを見返す。そうして彼は消え入りそうな小さな声で、「どうしよう、覚えてない」と呟いた。
「名前はわかるんだ。でも……それ以外のこと、まるで思い出せん」
イシュエルも薄々感づいていたようで、ローズさんのその言葉を聞いて「やっぱり、そうか」と呟く。
そうして彼は申し訳なさそうに項垂れるローズさんに、乱暴に自身の頭を掻きながらこう言葉を向けた。
「あー、おまえも記憶喪失系か! くそ、正直そういうのはめんどーだからアネモネだけでホントおなかいっぱいなんだけどな」
「うぅ……なんかわからないが、すみません……」
「いや、別に謝らんでも……でも確かに正直にぶっちゃけちまえばメンドーだけど、だからってここまで拾ってきといて、メンドーだからって理由で記憶喪失のやつをそこらへんに放り出すほど鬼でもねぇよ」
イシュエルは苦い表情のまま、ローズさんに「お前がいいなら、このまま家に置いといてもいいけど」とローズさんに言う。それを聞き、ローズさんは首を傾げた。
「置いとく?」
「俺たちがメンドーみてやってもいいって言ってるんだよ。キオクソーシツじゃ、金も仕事もねぇだろ」
「あぁ、それはたしかに」
イシュエルの言葉に納得したように頷いた後、ローズさんは申し訳なさそうな表情になって「でも、そんなこといいのだろうか」と不安げに呟く。
「いいって言ってるのに、何をそんな不安そうな顔をするの」
イシュエルが不思議そうにそう声をかけると、ローズさんはさらに小さくこう呟いた。
「だって、そんな、お世話になるとか……大変じゃないのか?」
「いや、別に。だって食費とかお前に自分で稼いでもらうし、家の掃除も時々やってもらうつもりだし」
「え?!」
驚いて目を丸くするローズさんに、イシュエルはさも当然といった様子で言葉を続ける。
「当然だろ? 働かざるもの食うべからずってな。ちゃ~んとお前が自分の食いぶちを自分で稼げば、こっちだってなんの文句も言わねぇよ」
「イシュエルさん、それじゃあ掃除はどーいう意味ですか」
メア君が私の後ろに隠れながら、イシュエルへ問いを向ける。それに対してイシュエルは、「まぁ、そっちは寝場所提供する分の労働かな?」と答えて笑った。
「えー、それなんかひどくないですか?」
「そんなことねぇよ。すげー優しいじゃねぇか、俺」
何か納得いかなそうなメア君だったが、二人の会話を聞いていたローズさんはメア君に「いや、いいんだ」と声をかける。そして彼は小さく笑って、こう続けた。
「彼の……イシュエルさんの言うとおりだ。居場所を提供してもらえるだけ、すごくありがたいよ」
ローズさんは人のよさそうな笑顔を浮かべて、「だから、それくらいの労働は当然だ」と言った。その彼の言葉と爽やかな笑顔に、なぜかイシュエルの表情が奇妙なものを見るようなものに変わる。
「なにこの善人っぽい人。こわい」
「な、なぜ……!」
イシュエルの失礼な一言に、ローズさんは動揺した反応を見せる。普通は怒ってもいいんじゃ……と、ローズさんのその反応を見て私は思った。
「ゼンニンっぽいって、どういう意味なんだ?」
真面目に悩みだした様子のローズさんを見て、イシュエルがあきれた表情となる。なんだか変な人だなと、私も内心でそんな失礼なことを思ってしまった。
「いや、いいよ気にせんで。それよりお前、ホントーにそれでいいんだな?」
「それ、とは?」
首を横に振ったイシュエルが、改めてローズさんに問いを向ける。
「今言った条件だよ。お前の記憶が戻るまでとか、一人で生活できるだけのある程度の金が溜まるまで、とか期限はお前が自由に決めていい。その間、ここで暮らす。けど、ちゃ~んと働いてもらうし、家事もしてもらう。それでもいいか、ってこと」
イシュエルが少し真剣な表情を向けてそう問うと、ローズさんも真面目な顔をして大きく頷く。彼は「お願いしたい」と、すっかり普通に喋れるようになった声で言った。
そうして彼は改めてといったふうに、私たちに向き直る。ローズさんは優しい眼差しを私に向けて微笑んだ。
「よろしく、アネモネさん」
「え?! ……あ、よろ、しく……」
眼差しを細めた優しい笑み。だけど私はなぜか無意識に彼を警戒し、優しげな彼に怯えていた。
【その2に続く】
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