アネモネのPSO2での冒険の記録です。
マ○オが攻略できないライトユーザーなので、攻略に役立つような内容はないです。
まったり遊んでる記録を残してます。更新も記事の内容もマイペースです。
リリパ成分多め。りっりー♪
(所属シップ・4(メイン所属)&10 メインキャラ:アネモネ サブ:メア、アネモネ(デューマン) 他)
※ブログ内の私のイラストは転載禁止です。
【死に至る花 02】
日記を書くことにした。もう、忘れないように。
些細な日常を、一文字一文字大事に記録していく。それは何か、儀式にも似ていた。
毎日少しずつ増えていく記述された日記の頁を眺めていると、とても心が満たされて幸せな気持ちになる。
『今日は、ナマミソちゃんと……』
時々日記を読み返しながら思う。この日記帳がいっぱいになって、次の日記帳に書くことになって……想像するだけで、すごくわくわくしてしまう。
これからは日記帳が増えていくたびに、それだけ私は幸せを経験したのだ、と。きっと、これがその証明にもなるのだ。
◇◇◇
戦場は、正直いつも怖い。それでも、戦うことは嫌ではなかった。だって、戦うことに集中すれば、余計なことは考えなくてすむから。
「きて……カスパール……」
私の呼びかけで、私の体から黒く形のないものが溢れ出す。正直、気持ちが悪い光景だ。
得体のしれないものを、私は体内に飼っているらしい。カスパールが一体なんなのか、詳しいことは知らない。記憶を失う前から、私はこれを武器としていたようだった。そして今の私よりはカスパールに詳しそうなイシュエルも、ただ『意思を持っている武器』としか知らないらしいので、それ以上を知るすべがなかった。
でも、イシュエルは私がカスパールを使うことをよく思っていないようだった。多分彼はカスパールについて、もう少し詳しいことを知っているんだと思う。だけど、それを私には隠している……そんな気がした。
「……撃て……」
カスパールが私の右手で形を成し、漆黒を纏った細い一振りの刃となる。それを小さく振うと魔法陣と共に紫電が生まれ、それは私の攻撃の意思となって眼前に立つ敵の兵へと放たれた。
「……アネモネ、大丈夫か?」
戦闘が終わり、イシュエルが私の元に駆けてきながらそう声をかけた。そんな彼に、私は小さく頷く。だけど彼は不安そうに私の顔を覗き込んできた。
「そうか? 顔色よくねぇし、無理してんじゃね?」
「無理、なんて……してないよ……おかしなこと、聞くね……」
そう、イシュエルに微笑みかけて返事をした時だった。突然、一瞬目の前が真っ暗になる。
「っ……」
目の奥がチカチカとする。同時にひどい脱力感。立っていられず、私はその場に膝をついた。
「おい、アネモネっ?!」
イシュエルの私を心配する声が、どこか遠くのもののように聞こえる。一体、急に私はどうしてしまったのだろう。正常に戻らない視界にも混乱し、怖くなった私は膝をついたまま顔を上げた。
「イシュ、エル……」
怖い。怖いよ、助けてほしい。私はいったい、どうなるの?
「アネモネ! おい、しっかりしろっ!」
怖い、よく見えないよ。彼の声が聞こえない。手を伸ばす。助けてほしくて……でも、どこに彼がいるのかわからない。伸ばした手は虚空を掴み、地に落ちた。
「ゲホッ……」
助けを求める声の代わりに、鮮血が吐き出される。私の口元が生温かい朱に染まり、止められない。まるで私の命が零れ落ちるかのようだった。
「アネモネ……っ! くそ、またかよ……また 、 ル 」
彼が何かを叫ぶ。だけど、もう私の耳には届かない。私の意識は”何度目かの”闇に飲まれて、堕ちた。
◇◇◇
目覚めると、見知った天井が目に入った。いや、多分知っているというほうが正しいのかもしれない。曖昧にしかわからないけれども、懐かしい場所だと感じた。
だけど、ここがどこで、自分がどういう状況なのかを理解するのに時間がかかる。
しばらくぼんやりと天井を見上げながら考えていると、傍で誰かが声をかけてきた。
「あっ……よかった、目が覚めたんですね」
傍に人がいるとは思わず、私は内心で少し驚く。驚きつつ、緩慢な動作で首を横に動かと、視線の先には私を心配そうな様子で見つめるメア君がいた。
「メア、君……」
そう、彼はメア君。私が召喚し、そして還せなくなってしまった悪魔の少年。でも怒らずに私の傍にいてくれている、優しい人。
彼の名前を口に出して、何となく私は安堵する。その名前を憶えていたことに安心している自分の違和感に、この時は気付かなかった。
「その……だいじょうぶ、ですか? なんか、急に倒れたとかでびっくりしたんですけど……」
ぎこちなく気遣いの言葉を投げかけるメア君に、私は小さく頷いて見せる。正直彼の言う倒れたとかは覚えていないが、でも心配している様子の彼を不安にさせたくなくて、まずは状況の確認よりも彼の問いに返事をするのを優先した。
「そう、ですか……いえ、ホントに大丈夫ならいいんですけど……イシュエルさんが怖い顔して、血まみれのあなたを抱きかかえてくるから、すっごい心配したっていうか……」
そう説明し、メア君は急にハッとした様子で「べ、別にそんなに心配はしてないですけどねっ」と私を見ていう。私が反応せずただ彼を見返していると、メア君は困った様子で呟いた。
「いえ、まぁ……やっぱり、心配はしましたけど……そりゃ、だって……イシュエルさんだってあんな怖い顔するから……」
ぶつぶつとそうつぶやくメア君を眺めているうちに、私はここがどこだかを思い出す。私の部屋だと気付き、私はまた視線を天井に戻した。
「で、でもホントに大丈夫なんです? 死んだみたいに顔真っ青だったし、血まみれだしですっごく驚いたんですけど……」
「……うん……いま、は……別に、へいきだけど……」
視線だけをまたメア君に戻しつつ、私は答える。そして、今度は私が彼に疑問を問うた。
「わたし、どうしたの、かな……」
倒れたというが、なぜ倒れたのか私にはわからない。なのでメア君に聞いてみたが、案の定彼は「知らないですよ」と言葉を返してきた。
「イシュエルさんに聞いても『そのうち目が覚めるから』とかしか言わないから、むしろ俺もアネモネさんに聞こうと思ったのに」
「……そう……ごめんね……」
何となく謝ると、メア君は「なんで謝るんですか」と言う。どう返事をしたらいいのかわからないので彼を見返すと、メア君は溜息を吐いた。
「……まぁ、いいです……大丈夫なら……でも、心配……えと、心臓に悪いので、体調悪い時は無理しないでくださいね」
メア君の言葉に、私は曖昧に頷いてみせる。何となくだけど、私が倒れたのは体調とかが原因じゃない気がした。
倒れた理由はわからない。自分でもわからないけれど、でも……何となく、イシュエルなら知っているような気がした。だけど彼は私にもメア君にも、知っていてもきっと話さないだろう。彼が私たちに何かを隠していることは気付いているし、聞いてもはぐらかすのは今までの彼の態度から容易に想像出来た。
「……私、どうしちゃったんだろう、ね……」
疲れたようなつぶやきが、自然と私の口から漏れる。メア君はやっぱり困ったように「知らないですよ」と返した。
だけどすぐに彼はハッとしたように、こう付け足す。
「そ、それより今はちゃんと休んでたほうがいいと思いますよっ! いろいろ考える前に、ちゃんと体を休めないと……っていうか、イシュエルさんは『多分、大丈夫』とか言ってたけど、お医者さんとか診てもらわなくてホントにいいんですかね……」
うさこを抱きしめながらそう不安げに呟いたメア君に、私は小さく「ありがと」と返した。
「え?! え、なんでありがとなんですかっ」
「……心配、してくれてるから……私の、こと……」
動揺するメア君に少し笑い、そして私は掠れる声で続ける。
「イシュエルが……だいじょぶって、いうなら……だいじょぶなんだと、思うよ……」
彼が何を知っているのかは、わからない。聞いても今は話してくれないだろう。私も気にはなるけれども、何となく聞くのが怖くもあった。私は真実を知りたいけど、でも恐れてもいる。矛盾した感情が胸の内で鬩ぎあっていて、正直考えると苦しくなることがある。
考えなくて済むときは戦ってるときや、共に戦う人たち皆で楽しくお話をしている時だけだ。だから私は戦うのをやめることが出来ない。カスパールを手放すことが出来ない。それが私を破滅に導いているのかもしれないけれども、それでも――。
「……うん、私は……だいじょぶ、だから」
繰り返す私の言葉に、メア君が眉を顰めたのがわかった。だけど彼は何も言わず、私の上にうさこを乗せる。耳を揺らすうさこは「きゅ~」と鳴きながら私の胸の上に乗り、その優しい重みに私は小さく「重い、うさこ」とつぶやいて笑った。
【死に至る花 02 END】
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【死に至る花 03】
俺は無力だ。
一番近くのたった一人も守れず、壊れていくのをただ見てることしかできない。
『アネモネ……大丈夫、か?』
無力な俺の問いに、返される言葉は拒絶だった。
『……だいじょうぶ』
静かに助けを拒む声は、俺の心を容赦なく傷つける。勝手に俺が傷ついてるのが、正しい表現なのだろうけども。
大丈夫なはずがない。いや、彼女の返事は、わかっていてそれを問う俺を責めているのかもしれない。どうせ何もできないのだ。なら、なぜ心配するのか、と。
『大丈夫じゃない、だろう』
それでも俺の言葉は止まらない。これは偽善なのかもしれない。彼女を心配する思いは間違いなくあったけど、だからといって俺には”彼女の代わり”になる勇気はなかった。
心配するその言葉の意味は、何もできない自分という罪悪感から逃れたいだけのもの。俺には救いの手を差し伸べることは出来ない。俺だって”あの人”が怖かったんだ。
『アネモネ……無理は、』
『……っ、たら……だった、ら……っ!』
俺の問いを遮り、うつむいていた彼女は顔を上げる。彼女は業火を宿す眼差しを俺に向け、呪詛を叫ぶように俺に言った。
『だったらあなたがあの女に殺されてよっ!』
『っ……』
そう、彼女の叫びは呪いだった。呪詛使いでもある彼女だが、俺を真正面から非難したその言葉には魔力は宿っていなくとも、無力を自覚する俺を打ちのめす。俺は彼女の怨嗟の声に、ただ茫然と立ち尽くした。
誰からも救いを差し伸べられない孤独と理不尽な仕打ちに、最初の頃の彼女は世界に絶望していたと思う。
それでもまだ救いを求めていた頃は、絶望しつつも助けを待っていた。だけど、やがて希望を求めることも止め、その瞳は何も映さなくなった。期待し続けるほどに傷つく心を守るための最後の手段に、彼女は無関心を選択したのだろう。やがていつの頃か、彼女の見ている世界には何もなかった。
そんな彼女が、今その瞳に再び何かを映している。壮絶な怒りと憎しみと、それ以上の悲しみを宿して、彼女は俺を見つめていた。
『どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの!? もういやだよ……もう、疲れた……よ……っ』
俺を映した蒼い瞳は、涙に濡れる。感情を表に出すことが少ない彼女だから、彼女の激しい感情を込めた叫びに俺は驚き戸惑った。
『疲れた……』
再び俯いた彼女の力ない声が空虚に落ちる。きっと、これが最初で最後の、彼女からの俺へのSOSだったのだろう。
呟く痛ましい一言までが、心身ともに疲れ果てて追い詰められた彼女の救いを求める声なのだ。こうやって壊れていく彼女を見るのは辛い。だけど、今さら自分に何ができる? 彼女の身代わりにもなれず、その勇気もない自分に、一体何が。
結局俺は何もできないままに、立ち去る彼女の背中を見送る。
それからアネモネが俺に感情を見せることは一度もなかった。
◇◇◇
ある日外出から帰ってくると、庭でアネモネがしゃがみ込んでナマミソと一緒に何かを見ていた。
「おい、アネモネ、何してるんだ?」
気になって声をかけてみると、アネモネはぱっと顔を上げる。そしてその瞳に俺を映して、「イシュエル」と俺の名を呼んだ。
「おかえり……」
「おう、ただいま。で、何してるんだ? なんか面白いもんでもあるんか?」
アネモネたちが見ていた場所を覗き込みながら俺が問うと、アネモネは視線を元へ戻してこう説明する。
「うん……今ね、ここに……ナマミソちゃん、持ってきた……何かの種、埋めたの……」
「へぇ」
アネモネは少し土に汚れた指で、地面を指差す。掘って埋め直した跡があるそこを確認しつつ、俺は苦く笑った。
「うーん……種、ねぇ」
「何か……芽、出るかな……お花さくと、いいんだけど……」
「いやぁ、どうだろうな……ちょっと今は時期的に寒いし、そもそもここは植物育つ環境の土地じゃねぇからなぁ」
そもそも、ナマミソがどっから種を持ってきたのかも不思議だ。俺が「花は無理じゃねぇの?」と言うと、途端にアネモネの表情が悲壮的なものへ変わった。そんな彼女の横顔に気づいて、俺は慌ててこう言う。
「そ、そうだ、室内で育てれば咲くかもしんねぇな! 鉢に植えて、室内で育ててみればいいんじゃね?!」
何の種かわからないが、まぁ巨大な植物が生えるということは多分ないだろう。あっても、とりあえず鉢で育てて、改めて外に植え直せばいい。
とりあえず芽が出る可能性が高そうな案を提案をしてみると、アネモネは笑顔になって「じゃあそうする」と言って俺を見上げた。
「うちの中で、育てる……イシュエル、手伝って……何すれば、いい……?」
「え、俺も手伝うの……? ま、まぁ……いいけど」
ちょっと面倒だと思いつつも、しかし断るのも可哀想なので手伝うことにする。俺は「んじゃ、鉢探してくるわ」と言って、家の傍の物置小屋に向かった。
「おいアネモネ、鉢あったぞ」
何が入ってるか俺もよくわかっていない物置小屋を漁ったら、幸運にもものの数分で鉢が見つかる。それを持ってアネモネの元に戻ると、彼女は先ほどと寸分違わぬ姿勢でしゃがみ込んで待っていた。そんなアネモネの頭の上で、ナマミソが休んでいる。だが俺が声をかけるとアネモネは顔を上げて振り返り、ナマミソも俺のほうへ飛んできた。
「イシュエル、すごい……それ、使うの?」
鉢を持ってアネモネの傍に俺もしゃがむと、アネモネは興味深そうに鉢を見つめる。「どうするの?」と首を傾げて聞く彼女に、俺は「こん中に土と種入れるの」と説明した。
「ふぅん……それで、芽が出る……?」
「や、絶対出るとはかぎらねぇけどな。そもそもちゃんと水やったりして育てねぇと、芽はでねぇだろうしなぁ……」
園芸なんてまったく詳しくないが、水をやるとかそういうことをしないとダメだろうということくらいはわかる。まぁ、そこらへんはとりあえず種を植え替えてから考えればいい。
「……とりあえず、ここに土と種入れるか」
俺がそう言うと、アネモネは小さく頷く。ナマミソも頷くように、俺の周りをふわふわと飛んだ。
「で、どこに種埋めたんだっけ? 掘りださねぇとな」
俺が地面に視線を向けながらそう言うと、アネモネは土の色が変わっている場所を指差して「この辺」と呟く。
「小さい種だったら、探すの大変そーだなぁ……」
早速掘り返そうと腕を捲りつつ俺がぼやくと、アネモネは「だいじょぶ、だよ」と言った。
「種、うさこと一緒に埋めたから……すぐ、見つかると思うよ……?」
「へぇ……って、うさこ?! お前、うさこ埋めたのか?!」
突然衝撃の告白をされて、俺は「なんで埋めたんだよ!」とアネモネに問う。アネモネは俺が驚くのを不思議に思っているような顔で、「だって」と口を開いた。
「栄養に……なるかと、思って……」
「だめー! うさこ、栄養にしちゃいけません! メア君また泣いちゃうでしょう! っていうか、お前はなんだ、うさこに一体何の恨みがあるんだ!」
常日頃うさこに対してひどいことをするアネモネだが、一体彼女はうさこの何がそこまで気に食わないのだろう……何を考えてるのかよくわからない彼女なので、俺は慌てて土を掘り返しながらそう聞いた。
するとアネモネは土を掘り返す俺の様子を眺めながら、ぼそぼそと説明した。
「別に……恨みなんて、ないけど……メア君が、うさことばっかり……一緒にいるから……なんか、埋めたく、なった」
「……」
「埋めたら、すっきりした……」
うさこに嫉妬してたのか……と、なんだか理由を聞いたら『どうしたものか』と困ってしまう。自分のことももっとかまってほしかったと、そういうことなのだろうが、しかし微笑ましい反面このままだとうさこが不憫すぎる。いや、嫉妬で埋められたうさこにとっては”微笑ましい”では済まない事態だろう。
「……アネモネ、そんなことしてると逆にメアに嫌われるぞ」
「え、やだ……っ」
俺の呟きを聞き、アネモネは急に悲しそうな顔になって、俺と一緒に土を掘りだす。するとすぐに、本当にうさこらしき水色のゼラチン物質が土の中から出てきた。
「う、ウワーうさこー! マジで埋まってるぅー!」
急いで土からうさこを救出すると、うさこはぽろぽろと涙を流しながら土まみれの顔で俺を見つめてきた。その手には、アネモネが言っていた種らしきものを握っている。種を握らされて土の中に埋められたうさこの気持ちを考えると、なんだか可哀想すぎて俺まで涙が出そうだった。
「う、うさこ……お前、おとなしく埋められるなよ……もっと抵抗していいんだからな?」
「きゅうぅ~……」
押しに弱く自己主張できない可哀想なところは、メアにそっくりだと思う。俺はうさこから種を受け取り、アネモネに「もう二度とうさこ、埋めるなよ」と言った。
「埋めない……メア君に、嫌われるのはイヤ……」
しょんぼりと少しは反省した様子のアネモネを見て、もうこれでうさこは埋められることはないだろうと安堵する。しかし土まみれになったうさこは、アネモネに怯えるように俺の脚にしがみついてぷるぷる震えていた。そりゃ、埋められればトラウマにもなるな。
「……うさこは後で水洗いするとして……とりあえず、種埋めるか」
うさこから受け取った種は、何だか白い綿毛のようなものがついた小さな種だった。不思議な種だなぁと、俺はそれをまじまじ見ながら思う。
「……何の、種だろう、ね」
俺が種を眺めているのを見て、アネモネがそう声をかけてくる。微かに微笑むその表情は、かつての俺が知らない彼女だった。
「んー……なんだろうな。わからねぇな」
「芽が、出て……そしたら、わかるね……楽しみ……」
本当にそれを楽しみにしている様子の彼女を見て、俺も興味はなかったはずなのに、『無事に芽が出てほしい』と思うようになる。このまま彼女には笑顔でいてほしいから、無事に芽が出てほしかった。
「メア君、おかえり……見て……っ!」
うさこを家に置いて出かけていたメアが帰宅し、アネモネは帰ってきた彼に早速鉢植えを見せてる。今はまだただ茶色い土が入っているだけの鉢だが、中には俺とアネモネで埋めた種が入っている。
メアは鉢を抱えて自分の元にやってくるアネモネに、不思議そうな顔で「なんですか、それ」と聞いていた。
「えと、ね……中、拾った、種を植えたの……何か、芽が出るかなぁって」
「へぇ……花か何かですかね」
メアは自分を見つけて一目散に駆けてきたうさこを抱き上げつつ、アネモネの持つ鉢植えを見ながらそう返事を返す。
「花だったら、何が咲くんでしょう? 楽しみですね」
メアはひねくれてることもあるけど、でも根は素直で優しい少年だ。本心から楽しみにしていると、彼の笑顔はそれを伝えている。だからアネモネも彼に同じ笑顔を返していた。
「うん……すごく、楽し、み……私、毎日、お水あげる……!」
「じゃ、俺も手伝いますよ。アネモネさん、忘れそうだし」
「わすれない、よ……だいじょぶ……日記、書くし……でも、ありがと……」
二人のそんな何気ないやり取りの会話を横で聞きながら、俺は地方新聞を流し読みしていく。何だか本当に穏やかで、これが幸せな日常というものなのだろうかとふと感じた。
何もない、ただ穏やかな日常。だけど、それが俺に……いや、俺たちには長く存在しなかった。だから、未だにこんな平穏な毎日が嘘みたいに感じることがあって。
「……シュエル……イシュ、エル……!」
「……あ、わり……なんだ?」
新聞を眺めながらボーっとしていた俺に、いつの間にかアネモネが傍に立って声をかけていた。俺が彼女のほうへ顔を向けると、彼女は鉢植えを持って俺に微笑んでいた。
あぁ、彼女はこんなふうに笑うのかと……俺は彼女の笑顔を知らなかったんだ。”あの日”から、何度そう思ったか。
「イシュエルも……一緒に、これ育てよ……? 三人……ううん、ナマミソちゃんも、うさこも……みんなで、この……種、咲かせよ……?」
何が育つのかわからない種だけど、でもアネモネはそれが芽吹くことを期待している。信じているのだ。
なにも信じず――世界に絶望し、期待することを止めていた彼女はもういない。
「……あぁ、いいぜ。一緒に、な。芽、出るといいな」
俺が微笑むと、アネモネも笑顔で頷く。俺はそっと手を伸ばし、彼女の髪に指を絡めて頭を撫でた。
【END】
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