アネモネのPSO2での冒険の記録です。
マ○オが攻略できないライトユーザーなので、攻略に役立つような内容はないです。
まったり遊んでる記録を残してます。更新も記事の内容もマイペースです。
リリパ成分多め。りっりー♪
(所属シップ・4(メイン所属)&10 メインキャラ:アネモネ サブ:メア、アネモネ(デューマン) 他)
※ブログ内の私のイラストは転載禁止です。
ある日の夜、アネモネが怖い顔をして俺の部屋にやって来た。
「……イシュエル、大変……なの」
「お、おう……どうした、アネモネ」
夜、風呂上りの男の部屋に躊躇なくズカズカ入ってくるアネモネに不安を覚えながら、俺は深刻な様子の彼女に「何かあったんか?」と聞く。アネモネはやはり怖い顔のまま、こくりと頷いた。
「なんだ?」
「……メア君、が……」
「メアがどうした?」
なんだか尋常じゃない様子を察して、さすがに俺も真剣な面持ちになる。メアに一体何があったというのか。
アネモネは一拍の間を置いた後に、いつもの小さく呟くような声でこう言葉を続けた。
「……メア君、が……うきわ、してる……」
「……海にでも行くの?」
この子は一体何を言ってるんだろう……深刻な顔で謎の『浮き輪』発言をするアネモネに、俺はどうしたらいいのかと悩んだ。
何か冗談を言っているふうでもないし、そもそもアネモネがここまで深刻な表情をするということは、相当な大事件のはずだ。メアが浮き輪をしてることが、どう大事件に繋がるんだ。いや、まぁこんな時間に一人で浮き輪つけて海に泳ぎに行くつもりなら、ある意味事件とも言えなくもないけど。つーか、大体メアはなんで浮き輪なんてしてるんだよ。あぁもう、わけがわからねぇ!
「アネモネ、なんでメアは浮き輪してるんだよ」
「だから、それ、私、が……聞いてるの……! メア君、最近……一人で、こそこそと、どっかいって……なんか、女性の、香水の匂いつけて……かえってくるんだもん……絶対、これ、うきわしてる、よ……!」
「お、おう、そうか、浮き輪……ん?」
必死なアネモネの説明を聞いて、俺はアネモネが何を言いたかったのか、その真実に気付く。
「……アネモネ、浮き輪じゃなくて、それは浮気じゃね?」
「……? ……うきわ!」
「あ、はい、すみません」
アネモネの言い間違いを指摘しても、アネモネは頑なに『浮き輪』押しだった。なんか、ホント記憶喪失になってから頭が残念な子になったよなぁ……記憶というより、脳みそごと減ったんじゃないかと心配になる。
まぁ、この際浮き輪でも浮気でも、話が通じればどっちでもいいことにした。つまり、彼女はメアが浮気をしてると心配しているのだ。確かに一人でどこかに行ったり、その度に女の香水の匂いをつけてくるなら、メアが女性と関係がある可能性が高い。
だけど、そもそも浮気というのはアネモネがメアと恋愛関係である前提で使われるべき言葉のはずだ。
「メアが浮気? そもそも、お前別にあいつと付き合ってるわけじゃねーじゃん。いいじゃねぇの、若いんだし女の子と遊んだって」
俺があくびを噛み殺しながらそう言うと、アネモネはぎろっと怖い顔で俺を睨んでくる。やべぇ、この目はあれだ、ヤンデレだわ。
「……メア君は、私のものなの……ゆるさないよぉ……私以外の、女のとこ、いくなんて……男も、だめだけど……」
「いや、メアもあの顔で健全な男子だったってことだろ。お前が召喚したのは事実だけど、だからって『私のもの』はどうなんかな……恋愛くらい自由にさせてやれよ」
「ぜったい、イヤ……っ! メア君は私の、もの……ぜったい、ほかの人に、渡さないよ……!」
「はぁ……」
とんでもなく独占欲の強いのに召喚されちまったなぁと、俺はメアに同情する。しかし、メアがうきわなのはどうでもいいが、メアに女がいるのは気になる。
「ゆるさなぁい……メア君、一体どこで、どんな人と……ネチャネチャしてるの……っ!」
「……気になるなら、今度こっそり後つけて尾行調査してみる?」
メアには悪いが、でも俺も気になっちゃうのでそんなことを提案してみる。するとアネモネはよくわかってなさそうに、首を傾げた。
「あーっと……メアが今度一人で出かけたら、こっそり後つけてどんな人と会ってるのか調べようかってこと」
俺の説明で理解すると、アネモネは間髪入れずに「する」と返事する。まぁ、何かアネモネが暴走したら俺が体張って止めればいいだろうし、俺は「じゃあ決まりな」と言った。
「そんじゃアネモネちゃん、今日はもう遅いからお部屋に帰んなさい。それとも俺と一緒に寝る? 俺は大歓迎だけど、そうすると寝不足確実よ? 尾行調査出来なくなっちゃうかもしれないけど、まぁ俺はそれならそれでも別に……」
「おやすみ、イシュエル……」
アネモネは俺に背を向けて、さっさと部屋を出ていく。俺は苦笑しながら、「おやすみ」と閉まりかけたドアに返事を返した。
◇◇◇
メアがうきわ……もとい、浮気をしている疑惑から翌日、幸運にも早速尾行調査のチャンスが訪れる。
「ごちそうさまでした」
イズレーンだかどっかの作法を真似て、丁寧に両手を合わせてそう言い朝食を食べ終えたメアは、まだ朝ごはんを食べているうさこに声をかけつつ席を立つ。
「うさこ、今日も出かけてくるから……家で待っててね」
「きゅ~?」
うさこは角切りりんごを飲み込みながら、メアの言葉に少しさびしそうな表情を見せる。だけどすぐに「きゅ!」と力強く頷いて、メアは小さく笑いながら「ごめんね」と返した。
そんな二人の様子を見ていたアネモネは、食パンを咥えたまま世にも恐ろしい顔でメアを睨む。その怨念こもった視線に気づいたメアは、「な、なんですか」とアネモネに言った。
「別に……」
「別にって顔じゃないでしょう……やめてくださいよ、急に怖い顔で睨むの」
「……ふんっ」
アネモネが尾行を暴露するんじゃないかと冷や冷やしながらやり取りを見ていた俺だが、アネモネはただふてくされた様子を見せ、メアもそんなアネモネを不思議に思いつつも「それじゃ行きますから」と言って部屋を出ていく。
「……ふんだ……メア君の、バカ……っ」
「まぁまぁ……早速今日、メアの秘密を暴けるチャンスが来たじゃねぇか」
頬を膨らませるアネモネに、俺が小声でそう声をかける。アネモネは不満そうな顔のまま俺を見返し、そして「うん、暴く……」と頷いた。
そうしてメアが一人で出かけてすぐ、アネモネと俺はそれぞれに変装をして家を出ることにする。
「……アネモネ、別に悪かねぇが……その変装はどうなんだ?」
メアが家を出てすぐ、俺とアネモネも家を出る。そして物陰に隠れてメアの後を追いながら、俺は一緒に尾行するアネモネに小さく声をかけた。
「……へんそう、だめ?」
「いや、だめじゃねぇが……逆に目立たねぇか、それ」
謎の虎覆面を頭から被り、黒いローブ服を身にまとうという変装をしたアネモネに、俺は若干の不安を覚えてそう言う。確かにここまで完全に顔とか隠れればアネモネだとはばれないだろうが、しかしとにかく見た目が怪しかった。
するとアネモネはメアの後ろ姿を見つめながら、「イシュエル……知らないの?」と俺に返す。
「ご存じ、ないのです、か……魅惑の、虎覆面……この、恰好……いま、ナウなやんぐに、ばかうけなんだよ……? イシュエル、遅れてる……流行りとか、気にならない……の?」
「……その恰好が流行りかどうかは知らんしどーでもいいが、俺はお前がどこでそういう言葉を覚えてくるのかが気になるよ」
アネモネは俺の疑問は無視して、ローブの下に隠したナマミソを俺に見せながら「ナマミソちゃんも、おそろいのかっこう」と言う。無造作に黒い布を巻きつけられたナマミソが可哀想だと思ったが、本人は楽しそうな顔で「み♪」と言ったのでまぁ気にしないことにした。
「イシュエルの、かっこうこそ……こわい……くろいめがね、悪い人っぽい……」
「サングラスで顔隠すのはふつーだろ。っと、メアを見失っちまう、行くぞアネモネ」
メアが角を曲がって姿が見えなくなったので、俺は慌ててそうアネモネに声をかける。アネモネは無言でナマミソをまたローブの下に隠し、俺たちはメアの後を追った。
メアは何か隠すようにこそこそするわけでもなく、しかし目的がある足取りでどこかへと向かっていた。
「ほんと、メアはどこに向かってるんだ?」
「あいじんの、いえよ……! あい、じん……! みだらな、ひるさがりの……だんちづま……!」
「だからアネモネ、お前どこでそーいう言葉覚えるんだよ……マジでやめろよ、相手も不倫かよそれ。泥沼じゃねぇか」
「がるるるるぅ……」
「おちつけー」
人で溢れるにぎやかな城下町の雑踏の中を、メアはスタスタと進んでいく。虎になりきって今にもメアに喰ってかかりそうなアネモネをなだめつつ、俺とアネモネは微妙に目立ちながら尾行を続けた。
つーか、俺はいいとしてやっぱアネモネが目立ちすぎる。なんか、時々人がちらちらこっち見てくるし! なんでメア君、こんな目立つ尾行にも気づかないの? 逆に不思議だよ!
「あぁ、やっぱ覆面は止めとけばよかった……」
「イシュエル、何……一人で、ぶつぶついってるの……それより、見てっ!」
アネモネは急に何かを指差し、俺に「あれ、見て……!」と俺に訴える。アネモネの指差すほうを見ると、メアが何か店に入っていくのが見えた。
「店? ふつーの喫茶店みたいだな」
「あの店で……落ち合う、つもりなんだ……うきわ、め……許さないっ!」
ギリッと強く歯ぎしりしたアネモネは、早速店に乗り込もうとする。だがさすがにこの虎の覆面のまま店に入っては、鈍感なメアも不審者に気づいて尾行がばれてしまうかもしれない。つーか、ばれる。
「アネモネ、待てっ。その覆面とってけ」
「え、やだぁ……メア君に、顔、ばれちゃ、う……!」
「その恰好目立つんだよ! いいから取れ!」
「……やー」
嫌がるアネモネの覆面を外し、改めて俺とアネモネはメアが入っていった喫茶店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
喫茶店に入ると、明るくハキハキとした声が俺たちを迎える。
「二名様ですか?」
「あ、は、はい」
俺たちを迎えた店員は驚くほど美人で、俺は思わず一瞬見惚れてしまう。一方でアネモネは顔を隠そうとしてるのか、両手で自分の顔を覆っていて全然見ちゃいなかった。
「席、ご案内致します」
にっこりと優しく微笑んだその女性店員は踵を返し、腰まである長い水色の髪を軽快に揺らしながら俺たちを席に案内していく。俺は顔を隠しているせいで前が見えずにふらふらしているアネモネを引っ張りながら、薄く甘い香りを漂わせて進む彼女の案内に続いた。
窓際の席に案内され、俺はほかのテーブルをさりげなく見渡す。だが不思議なことに、どこのテーブルにもメアらしき人物の姿はなかった。
「……おっかしいなぁ、メアどこにもいねぇぞ?」
「イシュエル、ねぇねぇ……私……これ、これ食べたい……季節の、ふるーつ、盛り合わせケーキっ」
「おい、お前目的忘れてねぇか? 何しにここに来たんだよ」
メアのことなんてすっかり忘れて普通にメニューを見ているアネモネに、俺は呆れながらそうツッコみを入れる。するとアネモネはメニューから視線を外して顔を上げ、「季節の、ケーキ食べに?」と答えた。
歯ぎしりまでしてメアのことを心配してたはずなのに、もうすでに忘れて季節のケーキに夢中になってるあたり、本当にこいつは記憶じゃなくて脳みその容量が減ったんじゃないかと心配になる。
「おおぉいアネモネちゃんしっかりしてくれよぉ! お前の大事なメア君がうきわで一大事なんだろおぉ?! 当初の目的を思い出そうぜぇ!」
「え……メア君が、どうしたっけ……覚えてない……それより、早くてんいんさん、呼んで……ケーキ、たのも?」
「ダメだこいつは……だめだ……」
ケーキに少ない脳みその容量全てを乗っ取られたアネモネにがっくり肩を落とし、俺はしょうがないので店員を呼ぶ。俺が「すみません」と声を上げると、最初に案内してくれたあの美人の店員が笑顔でこちらにやってきた。
「ご注文、お決まりですか?」
「あぁ、はい……この、季節のケーキの盛り合わせを一つ……あと、コーヒー……って、アネモネお前なにしてんだよ」
店員が来たら姿勢を正しつつまた両手で顔を覆い隠すという奇行を始めたアネモネに、俺はつい呆れながら声をかける。アネモネは「か、顔隠さないと」と、メアのことを忘れている癖にそんなことをのたまった。
「もういいだろ……俺が恥ずかしいからふつーにしてろ、お前はっ」
「ひぃ……イシュエル、怒った……イシュエル、怒るから嫌い……! 早く、ハゲちゃえ……」
「ハゲいうな! お前、何かと俺にハゲを期待してんな! やめろ!」
俺とアネモネがそんなやり取りをしていると、店員の女性はおかしそうに控えめな声で笑い出す。それに気づき、ますます俺は恥ずかしくなった。
「お前のせいで笑われてんじゃねぇかー」
「うええぇ~ん……っ」
「ふふ、ご、ごめんなさいね」
店員の女性は笑いをこらえるようにそう言い、俺も思わず「いえ、こちらこそすみません」と謝る。その間もアネモネは泣いていた。
「あーもう泣くなよー、めんどくせぇ……ほ~らよしよしアネモネちゃんいい子だからスマイル~」
「イシュエル、きらい~……ひっく……メア君、そんなふうに……っ……怒らないもん……っ」
「メア君?」
アネモネの一言に反応して、店員の女性が「あぁ、メアさんのお知り合いさんなのかしら」と言う。それを聞き、俺とアネモネはそろって女性店員を見た。
「え、メアさん? それって……」
「……あなた、メア君、知ってるの?」
俺が首を傾げ、アネモネはじっと彼女を見つめる。女性はアネモネの視線に戸惑う様子を見せつつ、「ええ、メアさんなら最近入ったバイトの子だから」と答えた。
「え、バイト?」
何か意外なことを聞き、俺は思わず問い返す。すると女性は、「あぁ、じゃあ呼んでくるわね」と言い、奥へと引っ込んでいった。
「……まさか、店に入ったはずのメアが見当たらない理由はそういうこと……?」
何となく謎が解け始めた俺の一方で、アネモネはなぜか女性が消えた方をじっと見つめて硬直している。一体彼女は何を考えているのだろうか。
「おい、アネモネ。どうした?」
俺が声をかけると、アネモネは視線はそのままに不可解なことを呟いた。
「……あの人、メア君と同じ感じが、する……」
「は?」
アネモネの真剣な横顔の言葉の意味がわからず、俺は「それって、メアと同じ匂いがするとかそーいうことか?」と聞く。するとアネモネは「そうじゃなくて」と首を横に振りかけて、はっとした表情で俺の方を見た。
「そ、そうだ……メア君、が、うきわしてた女の、匂い……あの、人だ……! 匂い、同じ……間違い、ないよ、イシュエル……!」
「おぉ……まぁ、同じ店で働いてるなら匂いくらい付くかもな」
「うきわ、だ!」
「いや、つーか案外これが答えなんじゃね? メア、ただこの店でバイトしてるだけで……」
アネモネの誤解に気づいて説明をしようとすると、女性と一緒に店の奥からメアがやってくる。彼はなんというか、案の定この店の男性店員の接客用の制服を着ていた。
「あぁ、やっぱり……」
メアが驚いた顔でこちらにやってくるのを見て、俺は苦く笑いながらそう小さく呟く。メアは俺たちの姿を見つけると、「な、なんであなたたちがここに!」と、ひどく驚いた様子を見せた。そうして俺たちのテーブルに近づき、彼は怖い顔で俺たちを睨む。
「何しに来たんですか! 二人で、こんなとこで……お、俺に内緒で、こういう店でいつも二人でおいしいもの食べてるんですか!」
「いや、メア……違うんだよ、今日は……」
何かメアはメアで違う誤解をしてそうなので説明しようと口を開くと、それを遮るようにアネモネが負けじと怖い顔でメアを睨んでこう言う。
「メア君こそ、私に内緒で……こんなとこで働いて、うきわしてるんで、しょ! 私以外の、女と……ネチャネチャして、いやらし、い……!」
アネモネの言い分を聞き、メアは「はぁ?」と驚きと呆れの混じった反応を返す。俺と女性店員さんは、今から口論が始まりそうな二人を前に困惑するしかなかった。
「うきわってなんですか! っていうか、俺がどこで何してようが俺の勝手じゃないですか……! ネチャネチャはしてないけど……いや、ネチャネチャってなんですか……大体、別に俺がバイトしてたって……」
「メア君、は、私のものなんだ、から……! 私以外の、女のとこ、行くなんて……絶対、ゆるさないからね……! ……男も、だめだけど……」
「まぁまぁ、二人ともそれくらいで一旦ストップな」
なんだか周囲に迷惑をかけそうな雰囲気だったので、俺は慌てて二人を止める。するとメアはハッとした様子で女性店員さんを見て、「すみません、レイリスさん」と言った。
「し、仕事中なのに……俺ってば……」
「あぁ、大丈夫だよ、今お客さんも少ないし……でも、アタシこそ、まずかったかな? 知り合いみたいだったから、メアさんを呼んだんだけど」
メアにレイリスと名を呼ばれた店員は、困ったように笑ってメアと俺たちを交互に見遣った。そしてメアは「確かに知り合いですけど……」と、不満げな様子で俺とアネモネを睨む。
「でも、なんというか……」
「あー……わかった、メア。事情は後で家に帰ってから聞かせてくれ。お前今、仕事中なんだろ? いや、俺たちもいきなり来ちまって悪かったぜ」
今はあまり長く話し込むと店に迷惑をかけそうなので、俺は「とりあえず俺たちはケーキ食って帰るから」とメアたちに告げる。
「アネモネもケーキ食わせとけば、とりあえず落ち着くだろうし」
「うううぅ~……」
メアに不審の目を向けて威嚇するアネモネに苦い顔をし、俺は「そういうわけでケーキとコーヒーよろしく!」と言った。俺のその注文に、レイリスさんは「かしこまりました」と、接客の態度に戻って笑顔で応じる。
「ほれ、メア君もお仕事なんだろ? 頑張ってなー」
「むぅ~……」
俺がひらひらと手を振ってメアに告げると、メアはやはり不満げな様子で俺たちを見返したが、しかし仕事中という俺の指摘はその通りなので「それじゃあ、邪魔しないでくださいよ」と言って立ち去った。
「……季節のケーキ、美味しかった……また、ここ来たい……」
とりあえずメアのバイトの件は、メアが家に戻ってから詳しく聞くとして、俺とアネモネは一先ず家に戻ることにする。
アネモネは季節のケーキを食べたら案の定怒りを忘れたらしく、俺が会計をしている後ろで満足そうに独り言を呟いていた。
「ありがとうございました」
最初に接客してくれた美人の店員でもメアでもない別の店員に支払いをし、俺はアネモネに「おい、帰るぞ」と声をかける。アネモネは小さく頷き、そして一瞬メアを探すように店内を見渡してから、彼の姿が見えないのを確認すると、少しさびしそうな様子で俺と共に店を出た。
「……メア君、なんで働いて……るんだろ……やっぱり、好きな人がいて……一緒に働きたく、て……」
「まぁまぁ。それはお家でメアに直接聞いてみないとわからねぇよ」
メアへの怒りが心配に変わったらしいアネモネが、小さく肩を落としながら俺の後に続く。そんな彼女に言葉を返しながら店を出ると、店先の立て看板の傍であの美人な店員さんの姿を見つけた。
驚いて俺が彼女を見ると、彼女はしゃがみ込んで何かに語りかけているようだった。犬か猫にでも話かけてるのか? と思い、そっと覗き込んで様子を伺う。アネモネも俺の背に隠れながら、同じように様子を伺った。
「……だから、お店来ちゃダメだって前にも言ったでしょ……寂しかったの? ごめん、でもさぁ……仕事おわったら、すぐ帰るから……ほら、うさこちゃんだっけ? 寂しいならあの子のとこいって、遊びに誘っておいで……ね?」
ぼそぼそと小声で語りかける彼女の言葉は聞き取りづらく、俺には何を言ってるのかほとんど聞き取れなかったが、彼女が話しかける相手が何なのかがわかって俺は思わず「あっ」と声をあげる。そして俺のその声に驚いたのか、レイリスさんはハッと顔を顔を上げて俺たちの方を振り返った。
「……あ、お、驚いた……な」
「あ、すみません、驚かせちまって」
本当にひどく驚いた様子の彼女を見て、俺は思わず頭を下げる。レイリスさんはすぐに表情を微笑へ変えて、「料理、美味しかったですか?」と俺たちに聞いた。
「あ、はい……アネモネも満足そうで……また来たいって言ってました」
「それはよかった。ぜひ、またお待ちしています」
接客の態度でそう返すレイリスさんに、俺は気になることを問う。
「あの、その……あなたの脚にしがみついてるのって」
「ゼラチンうさぎ?」
俺の問いを引き継ぐように、アネモネが小首を傾げながら言う。そう、レイリスさんが先ほどしゃがみ込んで語りかけていた相手は、小さな赤いゼラチンうさぎだった。
そのゼラチンうさぎは、小さな瞳からぽろぽろと涙を零してレイリスさんの脚にしがみついている。それはまるで彼女と離れたくないというような態度で、俺は家に置いてきたうさこをつい思い出した。うさこも、基本はメアにべったり引っ付いていて、メアがどこかにいくとさびしそうな顔をしてあんなふうに泣いたりするのだ。
レイリスさんは俺たちの言葉に何故か苦く笑い、「えぇ」と頷いた。
「その……大事な家族みたいなものなんだけど、ちょっとさびしがり屋さんで困ってるの」
レイリスさんはそう言いながら腰を落とし、寂しげに自分に引っ付くゼラチンうさぎを「本当に、仕方ない子ね」と言って抱き上げた。
「それじゃあ、アタシは仕事に戻らないと。……この子、どうしよう」
そんなことをぼやきながら、レイリスさんは店に戻っていく。俺が思わず「綺麗な人だよなぁ」と呟くと、アネモネも何かを考える様子で小さく呟いた。
「……やっぱりあの人、メア君と同じ感じ、する……」
「ん? ……あぁ、メアもうさこと一緒にいるからなぁ。確かに似てるな」
俺が彼女の呟きにそういって笑うと、アネモネは小さく首を横に振る。『そうじゃない』とでも言いたげな彼女のその様子に俺は眉を顰めたが、アネモネはそれ以上は何も言わなかった。
◇◇◇
夕方、メアが帰宅すると早速アネモネは彼に今回のことを問い詰めはじめる。
「メア君……っ……さぁ、説明してもらう、よ……私に、内緒で……なんで、働いてた、の……?!」
アネモネは腕を組み、ソファに座るメアの前で仁王立ちをする。そして怖い顔で彼を睨み、メアはそんな彼女を前に不機嫌そうに「そんなの、なんだっていいじゃないですか」と返した。
「なんでも、よくないから、聞いてるの……! メア君、何もわかって、ない……! うきわじゃなかったら、どうして私たちに、何も言わずに働いて、たの……!」
「それじゃ俺も聞きますけど、なんで二人であの店に来てたんですか! ホントは俺に内緒で、いつもこっそり美味しいもの食べに行ってるんでしょ! ずるい!」
「そんなこと、するわけないじゃ、ない……! メア君に内緒でなんて、そんなひどいこと、しないよ……! するなら、イシュエルに内緒で、メア君と美味しいもの、こっそり食べ、いくんだから!」
「ちょ、まてアネモネちゃん、それは俺にひどくね?」
二人のやり取りをとりあえず見ていようと思っていた俺だが、いきなりとばっちりを食らう。そんな俺にアネモネは怖い顔を向けて、「イシュエルからも、言ってあげて……!」と言った。
「メア君、私たち、が……どれだけ心配した、か……わかってない! うきわ、したんだって……私、すっごく悲しかったんだか、ら……! ごはんも、喉、とおらなくて……パンばかり、食べる日々だった、のよ……!」
「……イシュエルさん、さっきからアネモネさんは浮き輪浮き輪って、何を言いたいんですか?」
よく考えなくても、確かにアネモネの浮き輪発言は意味不明だ。メアの冷静な疑問に俺は頭を掻きながら、今回の出来事とその発端となるアネモネの抱いたメアへの疑惑の話を説明した。
そして俺の説明を聞き終え、メアは最初におも~い溜息を吐いてから、じとっと怖い顔で俺たちを見る。
「……なんで、俺が”浮気”なんですか。大体、浮気って使い方間違ってません?」
「あぁ……それは俺もアネモネに指摘したんだけどな。まぁ、聞いちゃくれなくて」
「うきわ……っ! うきわ……っ!」
「この通り暴走してて」
「……。で、二人で俺を疑って……尾行した、と」
「悪ぃな、ホント」
メアの不機嫌そうな眼差しに苦笑を返し、俺は頭を下げる。だがアネモネは自分たちが悪いとは思っていないようで、仁王立ちのまま「メア君も、悪いんだからね!」と言った。
「隠し事、すれば……気になるし、心配するの、当たり前でしょう……! たとえ、うきわが、誤解だったとしても……真実を、隠すから、誤解がうまれるんだ、よ……!」
アネモネにしては正論を言うので、メアも思わず苦い顔で言葉に詰まる様子を見せる。俺も「そうだな、ちゃんと言ってほしかったなぁ」と、メアに声をかけた。
「アネモネが心配してたのは事実だし、そもそもお前が個別に働く必要はないはずだよ? 兵として戦ってるから、国から三人分の給料もらってるでしょ?」
バツが悪そうな顔で押し黙るメア君に、俺はなるべく責めないような口調で「話してくれね?」と言った。
「バイトしてた理由」
「っ……」
メアはまだ迷うように数秒沈黙したが、アネモネが「やっぱり、やましい理由なんだ……!」と言うと、「違います!」と反論する。そうしてそのまま彼は、ぽつりぽつりと語りだした。
「……その、お二人に……プレゼントを、買おうと思って……」
「え……?」
「ぷれぜん、と……?」
まるで予想外のことを言われ、俺とアネモネは目を丸くする。するとメアは恥ずかしそうに目を逸らしながら、「だから言うの嫌だったのに」とぼやいた。
「え、なんでメア君、急にそんなことを」
俺が驚きながら問うと、メアは「いらないなら、いいんです」とふてくされたように言う。
「いや、欲しいし嬉しいけど、なんで? って……なんか、俺ら誕生日とかだっけ?」
「そういうのじゃなくて……っていうか、贈り物って記念日とかじゃないと贈っちゃだめなんですか?」
メアは驚いて目を丸くしているアネモネを見ながら、「普段、お世話になってるお礼とかしたかったんです」と小さく呟いた。
「べ、べつに、いらないならいいんですけどね……! 俺だって、別にそんな積極的に贈り物したいって、お……おもったわけじゃないし……!」
恥ずかしいのかなんなのか、顔を真っ赤にしてそう言うメアに、俺は思わず笑いそうになる。しかし、素直で優しくて照れ屋な少年を傷つけるわけにはいかないので、何とかそれは堪えた。俺ってホント、優しー。
「いや、ありがとな。その気持ちがうれしいよ」
「っ……」
俺の礼の言葉に、また照れたようにメアは顔を赤くする。面白いくらいに純粋なんだなと、俺はまた笑いそうになるのを堪えた。
「なぁ、アネモネもうれしいよな?」
俺がアネモネの方へ視線を向けると、アネモネはまだ呆けたように目を丸くしていたが、やがて「うん」と頷いた後に何故か泣き出す。
「え、ちょ……なんでそこで泣くの?」
「だ、だって……ひっ……わた、し……メア君の、こと……うたがって……ひっく……ご、ごめ、なさ……っ」
うきわうきわと騒いでいたアネモネだが、誤解が解けると疑ってしまったことへの罪悪感で泣いてしまったらしい。俺が『どうしたもんか』と溜息を吐くと、メアが「そんなことでいちいち泣かないでくださいよ」とアネモネに言った。
「まぁ、誤解させた責任は俺にもありますし……っていうか、泣かれる方が迷惑です」
「うえぇえぇ~……ごめ、なさい……」
「謝るのもやめてくださいよぉ……」
メアは本当に困ったようにそう言い、そして泣き止まないアネモネに溜息の後にこう続けた。
「……まぁ、もういいです。っていうか、せっかく内緒にして驚かそうかなって思ったけど……バレちゃったから、今度お給料入ったら一緒に買い物でも行きましょうか」
メアのその言葉に、泣いていたアネモネは顔を上げて驚いたように目を丸くする。
「え……メア君と、お買いもの……?」
「……ほしいもの、買ってあげます。高いものはダメですけど……お、俺もその方が、何あげればいいかなーとか悩まなくて済むしっ! 俺のためでもありますっ」
メアはやはり少し気恥ずかしそうな様子で、「だから、泣くのはやめてください」とアネモネに言った。
「泣くなら、買い物も行きませんよ」
「う、えぅ……泣きま、せん……」
アネモネはぐずぐずと鼻水を啜り、服の袖で涙を乱暴に拭う。そんな彼女の様子を見て、メアは苦笑を漏らした。
「それじゃ、誤解は解けましたね」
「……ん。でも、香水の匂い、してるから、誤解しちゃうよ……」
「そ、それはだって、レイリスさんに仕事教わってたから……それで、近くにいたからかな?」
少し慌てるメアの反応を見ながら、アネモネは「レイリス……」と小さく呟く。そうして彼女はまた少し考えるように沈黙した。
「? アネモネさん、どうかしましたか?」
「……なんでも、ないよ」
メアが声をかけると、アネモネはハッとした様子で首を横に振る。そして彼女は「お買いもの、楽しみ」とメアに微笑んだ。
こうして、アネモネの誤解から起きたちょっとした騒動は無事に解決する。
後日、俺たちはメアの初めてのバイトの給料で買い物に行ったわけだが、それはまた別の話。
【END】
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